あらゆるスポーツの中で、ゴルフほどメンタルな競技はありません。
止まっているボールを打つことが、なぜコースではこんなに難しいのでしょうか?
たった50センチのパットが、ときに試合では全く入る気がしなくなるのは、メンタル以外の何物でもありません。
とはいえ、本番で上手く打てないのは「技術が足りないから」と主張するプロもいます。
結論からいえば、メンタルトレーニングで、大きな改善を期待できるのは、こんな悩みを抱えているゴルファーです。
- こんなに練習しているのに結果が出ない
- 特定場面のひどいミス、イップス症状で悩んでいる
- プロテストやQTになると結果が出せない
- ラウンド中にずっと余計なことを考えてしまう
このページでは、このような課題を抱えているゴルファーのために、ゴルフのメンタルトレーニングに関する基礎知識と、それぞれの課題についての対応策や、メンタルトレーニング改善事例を紹介してきます。
目次
ゴルフのメンタルトレーニング
メンタルトレーニングとは、心理的なスキルを向上させるための体系的な練習方法のこと。
その歴史は1950年代に、旧ソ連のスポーツ心理学者たちが競技力向上のために開発したことが始まりとされています。
1960年代から70年代にかけて、欧米諸国でも注目され始め、特にオリンピック選手の育成に活用されるようになりました。
ゴルフメンタルの重要性は、ボビー・ジョーンズやベン・ホーガンなどの名手らによって指摘されていましたが、1970-80年代は、体系的なゴルフ向けメンタルトレーニングはまだ確立されていませんでした。
1990年代に入り、ボブ・ロテラの著書『私が変われば、ゴルフが変わる(Golf is not a perfect game)』によって、ゴルフにおけるメンタルトレーニングの重要性が広く知られるようになりました。
その後、多くのトッププロが、メンタルコーチとの契約を公言するようになっています。
今ではUSPGAの多くのトッププロがメンタルコーチと契約しているだけでなく、IMGアカデミーなどでも、メンタルトレーニングは必須の指導項目となっています。
ただ、2000年代に入っても、日本においてはメンタルトレーニングはあまり普及しませんでした。
その一番の理由として考えられるのは、日本人の精神性です。
これはゴルフに限りませんが、武士道精神の意識が高い日本では、メンタルの指導を仰ぐというのは、心の弱さを認めるようなもので、それに手を出すというのは、恥ずかしく、少し勇気がいることでした。
ただ日本でも、メンタルコーチとの関係を公にするプロゴルファーが増えてきています。
そのきっかけとなったのが、宮里藍プロです。
2011年に、米国の著名なメンタルコーチで『ビジョン54』で有名なピア・ニールソンとリン・マリオットの指導を受け、ひどいスランプから脱出しました。
最近では、優勝したプロゴルファーがメンタルトレーニングを実は受けていたというネット記事なども、より頻繁に見るようになりました。
メンタルトレーニングの目的と技法
プロアマに関わらず、ゴルファーがメンタルトレーニングを始める主な目的には、次のようなものがあります。
- 自信や自己効力感の向上
- パフォーマンスの最適化
- 集中力や注意力の強化
- 目標設定とモチベーション維持
- 不安や恐怖の克服
- ストレス管理と感情コントロール
また、用いられる技法は、次ようなものがあります。
- 呼吸法
- イメージトレーニング
- ルーティンの確立
- フォーカシング
- セルフトーク
- メンタルスコアカード

メンタルトレーニングの分類
これらメンタルトレーニングを大きく分類すると、「認知思考系」「暗示催眠系」「行動感覚系」の3つにわけることができます。
タイプ別にドライバーが調子が悪いときの対処法の例も含めて紹介します。
認知思考系 | ドライバーは必ずフェアウェーを捉えなければいけないと考えるのではなく、次のショットが打てるラフに行けばOKとすれば、気持ちの余裕をもってドライバーを打つことができる。 |
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暗示催眠系 | 自分はできる、必ず成功すると、言葉やイメージで自分に暗示をかける。暗示がかかれば、ラウンド中の不安がなくなり、ドライバーも思い切り振ることができる。 |
行動感覚系 | 呼吸やストレッチで体を整え、アドレスでのルーティンを決めておけば、力まず、いつも通りのドライバーショットができる。 |
どのタイプのメンタルトレーニングが一番なのかは、あなたの置かれた状況や、症状、経歴や実績、性格タイプによって違ってきます。
大事なことは、自分に合ったメンタルトレーニングの方法を選ぶことであり、それを提供してくれる経験豊富なメンタルトレーナーを選ぶことです。
メンタルトレーナーとの相性が非常に大切です。
こんなゴルファーはメンタルトレーニングで改善効果を期待できる!
それでは次に、私がメンタルトレーニングで改善効果を期待できるゴルファー、そしてその課題についてみていきたいと思います。
このあたりも、メンタルコーチの経験や考え方で、大きく変わります。
私の考えやアプローチがどういったものであるかの参考になればと思います。
こんなに練習しているのに結果が出ない
ゴルフが好きで、こんなに練習しているのに、ラウンドになると全く別人になってしまい、本当にひどいショットを連発したり、信じられないようなスコアを叩いてしまう…。
アベレージゴルファーだけでなく、ときとして上級者やプロでも陥りがちです。
ゴルフの難しいところは、練習しなければ上手くならないのに、間違えたやり方で、練習をやり過ぎると、調子を崩したり、イップスに陥ったりすることです。
下記は、私のメンタルトレーニングプログラムを受講した、30代でゴルフにハマり、週2回以上の個人レッスン、週1-2ラウンドを重ねていた男性医師のコメントです。
自分はこんなにもゴルフに情熱を注ぎ、お金も時間も費やしているのに、適当にやっている同伴者よりもなぜスコアが悪いのか、なぜ失敗ばかりするのか?
なんで自分はラウンドに出て、こんなに練習してるのに、フェアウェイからも初心者みたいなミスをしてしまうんだろう…など自己否定をしていまいます。
なかなか悲痛な本音です。
本人からすると、こんなに練習しているのに結果が出ない理由がわからないと、苦悩していました。
でも、私の経験から言えば、彼は委縮の悪循環が起きているだけです。
この悪循環の要因をひとつずつ取り除きながら、小さい成功体験を重ねていけば、また元の状態に戻ることができます。
正直、それほど難しくはありません。
実際、彼の場合は6週間でベストスコアを更新しました。
ただし、委縮の悪循環を取り除くメンタルトレーニングでできることは、本来の状態に戻すことだけです。
優勝できる力がない人が、優勝できるようになるわけではありません。
また、プロテストやQTなど、人生がかかった大きな本番で結果が出せないのは、後述するように、また違った対応が必要です。



上がり3ホールで大叩きしてしまう
ベストスコアを更新するペースでラウンドが進んだものの、あがり3ホールでスコアを意識したとたんに、大崩れしてしまった経験を持つゴルファーは多いのではないでしょうか?
あがり3ホールで叩いてしまったという経験を重ねれば重ねるほど、あがり3ホールで叩いてしまう確率は高まります。
それは、大事な試合やプロテストなどでも起こりがちです。
もちろん上級者はダボやトリプルを簡単には叩きませんが、それまで出なかったボギーが連続するだけで、順位は大きく下がってしまうのです。
「ゴルフはあがってなんぼ」「途中のスコアは通過点」などと、自分に言い聞かせるようにしても、結局あがってみると、いつものスコアになってしまうものです。
そんな傾向で結果を出せないゴルファーにお勧めなのがイメージトレーニングです。

イメージトレーニングと聞くと、ベストスコアを更新し、成功している自分を思い浮かべがちですが、私があなたにお勧めしたいのは「メンタルリハーサル」です。
これが本番で力を発揮するために、最も大切なメンタルトレーニングです。

簡単にいえば、事前に緊張することが分かっている後半のあがり3ホールを、感情を込めて、事前にイメージしておくことで、やるべきことを事前に確認し、慣れてしまうというものです。
例えば、プロテストの最終日最終ホール。
これを決めないと不合格というパッティングを、事前にどれだけイメージしておくかで、その成否は変わるものです。
プロテストやQTだと結果を出せない
プロテストやQTといった試合は、ゴルファーにとっては特別なものです。
その後の人生、その次の1年に大きな影響を及ぼすからです。
しかし、このような大舞台になると、本来の力の半分も出せなくなってしまうゴルファーが大勢います。
下記はあるゴルフ番組で、プロを目指しているとは思えないほど、ひどいセカンドショットを連発して、脱落していった女子ゴルファーのコメントです。
本番になると、練習と全く違う感覚になって全く振れない。振れないので、本番だと何十ヤードも飛距離が違う…
これもリアルで悲痛な本音です。
しかし実際のところ、こういったゴルファーは本当に多く、本当はプロの試合で活躍していてもおかしくないのに、試合にすら出れないでいます。
私はこれまで多くのゴルファーを指導してきましたが、その経験の中で気づいたことは、多くの選手は、普段は血の滲む努力をしているにもかかわらず、本番(試合)に向けての準備が不足していることでした。
普段、やるべきことをやっていれば、それが試合で発揮される、と考えるのでしょう。
しかしそれでは足りないのです。
本番で力を発揮するための準備が必要です。
それもメンタルトレーニングなのです。
「努力は試合で報われる」はある程度までは本当です。
しかし、プロテストやQTなど、大変緊張感のある、同じレベルの人間が切磋琢磨している中では、その試合への準備の仕方が、結果に大きく差が出るのです。
一打一打のプレッシャーは甚大で、メンタル面の準備は必要不可欠ですが、その準備も中途半端ではダメです。
徹底的にやる必要があります。

また、女子プロゴルフの世界はどんどん競争が厳しくなっていて、高校や大学で全国レベルで活躍していたとしても、プロの世界に入れるのは本当に少数です。
学生時代に全国優勝経験がなくてもプロの世界を目指したいのであれば、しっかりとした計画を立てて、地道に取り組む必要があります。
こういった計画作りも、目標設定・動機づけであり、メンタルトレーニングの一貫です。
正しく体系的に行わないと、エネルギー切れを起こして、前に進めなくなります。

イップス症状で苦しんでいる
ゴルフでメンタルトレーニングを始めるきっかけとして多いのが、イップスです。
イップスとは「特定の場面でだけ、体が固まったり、おかしな動きをする」症状のこと。
パターイップスがよく知られていますが、ドライバーでもアプローチでもイップスは起こります。
イップスが起こり始めたとき、それを悪化させないことが何よりも大事です。
イップスがどんなふうに悪化しやすいかの例を紹介しながら、自分でできる心理的対処法を紹介します。

しかし、イップスの原因をよくよく分析していくと、必ずしも同じ原因で起きているとは限らないようです。
イップスの治療法は確立されておらず、上級者やプロゴルファーの間では「魔病」として恐れられています。

これまでの経験上、上級者やプロゴルファーがなるイップスは、確かに時間がかかることが少なくありませんが、アベレージゴルファーやハンデ12くらいまでの中級者ゴルファーがなるイップスは、トラウマによる条件反射であり、正しいトレーニングで改善していく可能性は高いです。
とはいえ、その道のりは長く、3歩進んで2歩下がることもあります。
そんな辛い思いをしてまで、なぜあなたはゴルフをするのか?
途中で挫折せずに続けていくために、メンタルトレーニングを始める時点で、そんな問いから始めるのも大切です。
フローゴルフのススメ あなたはなぜゴルフをするのか?
私はこれまで多くのゴルファーを教えてきました。
その経験から言うと、どんなメンタルトレーニングをやるにしても、そもそも「なぜゴルフをするのか?」という問いに対して、自分なりに明確な答えを持っていなければ、その効果は限定的だということです。
ゴルフでは、必ず不調は訪れます。
イップスやスランプの改善などには時間がかかります。
一度良くなった!と喜んでいても、また戻ってしまうことも少なくありません。
そんな不調が訪れたときに、不調が長く続いたとき、つい目先のことしか考えられなくなり、一貫してメンタルトレーニングをやり続けることができなくなってしまうからです、。
あなたが真の上達を目指すのであれば、私がお勧めするのは「フローゴルフ」という考え方です。

フローゴルフとは、ゴルフへの向き合い方を、自分自身への挑戦として位置づけ、そのプロセスで起こる至高の集中状態「フロー」を目指す姿勢です。
その基本理念は、ゴルフの帝王、ジャック・ニクラウスの次のコメントに集約されています。
チャレンジすることは決して楽なことではない。しかし、私にとって自分の限界への挑戦とその克服こそがスポーツする理由のすべてなのだ。
それに打ち勝ったときの高揚感は、人生で最高に興奮する瞬間だといえる。
それはライバルに勝ったからではなく、最大の敵である自分自身に打ち勝つことができたからだ。

『ジャック・ニクラウス自伝』
フローゴルフの目標は、ゴルフを通した自己実現であり、生き方改革です。
メンタルトレーニング石井塾では、このフローゴルフを基本理念にしつつ、あなたの抱える課題に対処するためのメンタルスキル(呼吸法やイメージ)を教えています。
