ゴルフにおけるイップスとは「特定場面で体が固まったり、おかしな動きをする」こと。
イップスで苦しんでいるゴルファーも少なくありませんが、実は同じ原因で起きているとは限りません。
鼻水が出るからと言って、風邪であるとは限らず、花粉症かもしれないし、直前に熱くて辛いラーメンを食べたからかもしれない。
原因が異なれば、対処法も異なるものです。それは鼻水でも、イップスでも同じです。まずはあなたのイップスがどのような脳内メカニズムで起こっているのかを理解することが大切です。
このページでは、「脳の誤作動」とされるゴルフイップスが、具体的にどんな神経的メカニズムなのかを詳しく解説します。
少し難解なところもありますが、できるだけわかりやすく書いたつもりです。興味がある人はしっかり読んでみてください。
イップスの原因はひとつではない!主要な3つのメカニズムとは?
典型的なイップス「特定の場面でだけ、体が固まったり、おかしな動きをする」という症状が起こる原因には、主要なものは次の3つがあると考えています。
- 委縮の条件反射型(トラウマ型)
- マイナスの自己暗示型
- メンタルモデルの神経不全型
まずは、それぞれのタイプについて概要を説明していきます。
イップスの原因その1 トラウマ委縮の条件反射型
3つの要因の中でも、トラウマ萎縮の条件反射型こそが、ほぼ全てのゴルフイップスの主たる要因と考えて間違いないというのが、今の私の見解です。
書籍や雑誌記事で、イップスで苦しんだ経験のあるプロアスリートの話を読むと、やはり何らかの記憶に残るトラウマ事件があります。
阪神タイガースの藤波晋太郎投手は、広島の黒田投手への頭部への投球を強く叱責されたことであったり、森田理香子選手は、3Tour選手権でのアプローチミス(シャンク)を観客に笑われたことであったりです。
あなたにもそんなトラウマ体験があるのではないでしょうか?
トラウマのメカニズムは、ここ10数年でよく知られるようになりました。脳科学の発展で、脳の奥のほうにある「へんとう体」の働きがよくわかってきたからです。
へんとう体は、過去に起きたさまざま感情を覚えておくための部位で、簡単にいえば「感情記憶」を司っています。その中でも主たる役割が恐怖記憶です。
へんとう体は、過去の恐怖刺激を感知すると、無意識に瞬間的に体がストレス反応を起こします。つまり、トラウマというのは、このへんとう体にある「恐怖記憶」のことなのです。
例えば、過去に犬に追いかけられて怖い思いをしたことがある人は、後日、似たような犬を見るだけで、へんとう体は無意識に反応し、体は硬くなったり、震えたりします。
ゴルフでいえば、右に池があるホールでは、いつもダウンスイングで体が止まって引っかけてしまったり、逆に体が開きすぎて、結局池ポチャしてしまうというのも、軽度のトラウマといえるのです。この原因は、ダウンスイングの瞬間に、筋肉の一部がストレス反応のひとつとして硬直してしまうからです。
無意識に起こるので、非常に厄介ではありますが、トラウマ反応が起こるメカニズムは、今ではほぼ解明されているので、そのメカニズムに基づいて正しくトレーニングをすれば、薬に頼らずに、トラウマを弱くしていくことができます。
ただし、後述しますが、トラウマが複雑化している場合、それなりの時間がかかることもあります。
繰り返しになりますが、このトラウマが引き起こす条件反射型のイップスが、全てのイップスの基本メカニズムであり、出発点といって間違いないというのが、今現在の私の見解です。そして、そこから次のようなメカニズムが「上乗せ」されたりして複雑化していくのです。
トラウマの条件反射型のイップスへの対処方法については、下記のページで詳しくまとめていますので、ご覧ください。
ゴルフイップスの原因その2 マイナスの自己暗示型
「あなたの体は岩のように固くなる!」といわれて、2つの椅子の間に棒のように横たわるような催眠術ショーを見たことがありませんか?ほとんどの場合、それはやらせではなく、本当に催眠にかかっているのです。
私たちの脳は、どうも、こういった暗示や催眠にかかるようになっており、ちょっとにわかには信じられないようなことを起こります。レモンは甘い、と催眠をかけられた人は、つばを出すことなく、「甘くてメロンみたい」と、そのレモンを食べることができるのです。
「自分の手はパットのときに動かない」と強く暗示をかけていると、本当に動かなくなっても全く不思議ではありません。
この類の自己暗示は、風水やお守り、パワーストーンや磁気ブレスレットを自分で繰り返し購入する人にかかりやすいものです。いつもはプラスの自己暗示をかけているのですが、イップスに関してはマイナスの自己暗示をかけてしまいます。
自己暗示は、競技レベルにかかわらず、かかるので、プロや上級者でも、自己暗示で体が動かなくなることはあります。
このような自己暗示型のイップスの人には、暗示催眠系、スピリチュアル系のメンタルトレーニング・セラピーは最大の選択肢です。
実際、イップス治療でネットで知られている某セラピストは、暗示催眠系のメソッドを使っています。「無意識に働きかける」というような表現を使うセラピストは、このタイプです。即効性のある方法であり、いとも簡単に克服できてしまうこともあります。
また手技や電気治療でイップスが短期間で治ると謳うセラピーもたまに見かけますが、それもほとんどの場合、暗示催眠が主効果と考えて良いでしょう。
イップスをインターネットで検索すると、この暗示催眠系の整体セラピーの広告が大きく表示されるので、すでに「受けたことがある」という人もいるでしょう。
塾生のW氏が受けたときの経験などを下記の記事でまとめています。
ゴルフイップスの原因その3 メンタルモデルの神経不全型
動いていないエスカレーターに乗ろうとするときに、勝手に体を前傾させるので、少しカクンとなりませんか?
これは、私たちの脳が、これから起こることに対して身体反応を自動調節しているからです。
メンタルモデルとは「環境を瞬時に判断し、複雑な行動を制御するための一連の脳内イメージ」です。動いていないエスカレーターへの対処も、ひとつのメンタルモデルの例です。
精密なゴルフスイングのメンタルモデルは繰り返しの訓練によってできあがるものであり、初級者にはそのようなメンタルモデルが強固にできていないので、これが原因でイップスは起こりません。
しかし、プロや上級者は、パッティングの際に、距離やライ、傾斜などのグリーンの状況などを瞬時に判断し、望ましいパッティングをするための
メンタルモデルがあり、そのメンタルモデルが、その次に行う複雑なパッティング動作を自動的に制御するのです。
こういったメンタルモデルが確立されている上級者の特徴として、やろうと思ったことが「違った!」というときに、瞬間的にその動きを修正する能力が備わっています。例えば、ダウンスイングに入ったときに、「ひっかけそうだ!」と感じると、瞬間的に右手を離したりするといった動作です。
しかし、なんらかの理由で、このメンタルモデルの一部が欠損し、その制御ができなくなります。ほぼ自動的にできたことがスムーズにできなくなるのです。それどころか、無意識に腕の動きを止めてしまうのです。
これこそがイップスは上級者にしか起こらないといわれる所以であり、なかなか克服できない「本物のイップス」と呼べるものです。
パターを長尺に変えたり、グリップを変えることで、イップスがなくなるのは、この欠損したメンタルイメージを使わないで済むからと考えられます。
女子プロの服部真夕さんが、数年前にアプローチイップスになり、しばらく低迷していましたが、アプローチだけ左打ちにして、2021年の下部ツアーでの優勝を果たしました。現実的で勇気ある選択だと思います。
私が指導したアプローチイップスに悩むアマチュアゴルファーにも、アプローチの左打ちを強く勧め、今ではそれで、クラブ選手権を戦っています。
ただ、パターやアプローチであれば、左打ちという選択がありますが、ドライバーイップスの場合には、なかなか簡単には変えることができません。
丸山茂樹プロも、40代の始めからドライバーイップスに悩み、ダウンスイングで「悪魔がやってくる」と表現されていました。その後の怪我もあるのでしょうが、今でもツアーに復帰することができていません。今は新しいグリップ「テンフィンガー」を試しているようです。
競技レベルからあなたのイップス原因を推測すると…
自分のイップスがどの原因であるかを知ることは、あなたがイップスを克服する上で、どのようなアプローチが有効なのかがわかります。
個別に時間をかけてヒアリングしたほうが、より正確な判断ができるのですが(希望者はお試し入塾相談へ)、どのタイプに該当する可能性があるかは、あなたの競技レベルでおおよそ推測することが可能です。
まず、あなたがハンデ15以上のアベレージゴルファーであれば、3の神経不全型が原因となることはなく、条件反射型か自己暗示型のいずれか、もしくはその複合タイプです。
上級者やプロであれば、3の神経不全型の可能性が入ってくるので、そのいずれかか、その複合タイプ。
まとめると、次のような感じになります。
一般アマチュア | 上級者・プロ | |
条件反射型 | ◎ | ○ |
自己暗示型 | △ | △ |
神経不全型 | × | 〇 |
やはり圧倒的に割合として多いのは、トラウマの条件反射型だと思われます。これをベースに複雑化していく中で、ほかの2つのタイプを上乗せしていくイメージです。
私の見解はこのような感じなので、「自分は暗示にかかりやすいかも?」というゴルファーは、まずは暗示催眠セラピーを試してみるのもありでしょう。効果がある場合には、必ず短期間で起こりますので、それが起こらなければ、ほかの選択肢となります。
これまで解説してきた通り、基本は条件反射型なので、石井塾では、とにかく条件反射を弱めるようなメンタルトレーニングを丁寧に指導しています。
https://ishii-juku.jp/yips.html
ゴルフイップスの原因を考察するうえでの参考文献
『エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学』ジョセフ・ルドゥー著(東京大学出版会2003)
『ピアニストの脳を科学する』古谷晉一著(春秋社2012)
『脳の中の身体地図』サンドラ・ブレイクスリー他著(インターシフト2009)
動きを生み出す こころとからだのしくみ スポーツの神経科学 増原光彦監修(あいり出版2004)
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