メンタルリハーサルは、イメージトレーニング(イメージング)の一種であり、大事な本番で最高の力を発揮するための方法です。
本記事では、多くのトップアスリートも実践する「メンタルリハーサル」という強力なテクニックを紹介します。
メンタルリハーサルを使えば、本番での「不安や緊張」「迷い」を減らし、自然と体が動く状態、いわゆる「ゾーン」にも入りやすくなります。
アスリートだけでなく、大きなプレゼンを控えるビジネスマンや経営者、演奏家やダンサーにも参考になるはずです。

メンタルリハーサルとは?
メンタルリハーサルとは、その言葉のとおり、本番を「頭の中で」リハーサルすることです。
例えば、入学式や卒業式などのイベントや、音楽会などでは、必ず本番前にリハーサルを行いますよね?
このような予行(リハーサル)を行うことで、本番でやるべきことを事前に確認できるし、「これをやるには無理があるかも?」と流れを修正できたりします。
つまり、リハーサルによって、問題点が発見されたり、不安が軽減されるのです。
しかし、スポーツの試合や、音楽コンクールなどでは、通常リハーサルはありません。
一発勝負です。
であれば、自分の頭の中でやってしまえばいいのです!
メンタルリハーサルでは、本番での状況や自分がやるべきことをリアルに想定し、繰り返しイメージしていきます。
これは現在、クライアントに本番で力を発揮させるために、私が最も重要視しているメンタルトレーニングです。
実際、一流のプロフェッショナルは、このようなメンタルリハーサルを日常的に行っています。
パイロットの「イメージフライト」
ゴルファーの「イメージラウンド」
外科医の「イメージサージャリー」
コンサルの「イメージプレゼン」
これらのイメージは全てメンタルリハーサルです。
ここ一番で本来の力を発揮するためのメンタル面の準備が不足している!
私がこれまで大勢のアスリートを指導してきて気づいたことがあります。
それは、選手たちの多くは、血のにじむ努力のなかで、普段の練習に取り組んでいる割には、本番のための準備が「圧倒的」に少ないことです。
普段から、しっかりと練習していれば、本番では自然と力が発揮されると思っているのだろうし、アスリート本人だけでなく、監督やコーチもそのように考えているひとが多いと思います。
しかし、私からすると「本当にもったいない!」のです。
競技レベルが高ければ高いほど、勝敗や結果は、本当に小さいところの差で勝負が決まります。
それでは、この小さな差がどこで生まれるのかというと、普段の練習で培った技能が、本番で、どれだけ早く、正確に発揮されるかに尽きるのです。
迷いなく、体が勝手に反応してくれる状態が理想で、それがいわゆる「ゾーン」とか「フロー」です。
既視体験(デジャヴ)を起こせれば、フローに入れる!
メンタルリハーサルの目的のひとつは、「デジャビュ(既視体験)」を起こすことです。
これが成功すると、ゾーンに入れる割合がぐっと高まります。
デジャビュとは「既視体験」という意味で、「前にどこかで体験したかも」という感覚です。
本番前に、メンタルリハーサルを行うことによって、本番で「デジャビュ」を起こりやすくさせるのです。
例えば、競技スキーの選手が、大会の本番前にイメージトレーニングを行うことで、競技中に「デジャビュ」を感じることができれば、次のターンへの「迷い」を追い払うことができます。
なぜなら、その「デジャビュ」では、パーフェクトの滑りができていたのだから。
また、試合前にメンタルリハーサルを行うことによって、バスケットボールの選手が「デジャビュ」を感じることができれば、相手選手の動きに対して、「迷い」を生じさせることなく、機敏な対応が可能になります。
実際に、シカゴ・ブルズの黄金期を築いたカリスマ・ヘッドコーチであるフィル・ジャクソンは、選手に対して、この「デジャビュ」を起こすためのイメージトレーニング(視覚化訓練)を指導していました。
BJ・アームストロングやスコティー・ピッペン、そして他の選手たちも、ゲームの前に視覚化の訓練をしている。
ゲームの前に2-30分間時間をとって、これから起こることを視覚化すると、頭の中で一度見ているので、考えることなく反応できるんだ。
ゲームの前、横になっていると、自分がシュートしたり、ボクシング・アウトしたり、ルーズボールをとったりしている姿が見えるんだ。
だから、それからゲーム中に頭の中で一度見たことが起きた時、考えないで行動できるんだ。
考え直すことも躊躇することもない。
時々、ゲームの中で、「やった、あれは見たぞ!実際に起きる前に予想したんだ!」と思うことがあるとアームストロングは言う。
『シカゴ・ブルズ 勝利への意識革命』
フィル・ジャクソン(PHP研究所)
本番の不安や緊張、想定外の出来事に「慣れて」しまおう!
メンタルリハーサルで既視体験を起こして、フローに入れれば最高ですが、いきなりそこを目指せるのは、ほんの一握りのトップパフォーマーだけです。
メンタルリハーサルの初心者は、もっと誰にでも起こる効果を目指しましょう。
私たちは誰でも、初めての試合会場や、大勢の観客の前など、普段の練習環境とは異なる本番環境に入るだけで緊張してしまい、なかなか思ったような動きができなくなってしまうものです。
こういうったことは、スポーツだけでなく、仕事や演奏などでもよく起こります。
というのも、人はいつもと違う環境では、ストレスを感じ、緊張するものだからです。
これは動物にも見られる本能的な反応です。
しかし、徐々に環境に慣れていき、ストレスを感じるのが小さくなくなっていきます。
これを心理学の専門用語で「順化(馴化)」といいます。
簡単にいえば、「慣れ」です。
メンタルリハーサルは、この慣れのメカニズムを利用したものです。
事前に試合会場や試合の流れなどをイメージでリハーサルしておくことで、不慣れな環境に慣れたり、突然のアクシデントなどにも動揺しないようにしておくのです。
また、競技によっては、試合の展開を事前に予行することで、試合に向けて、しかるべき準備ができることもできます。


メンタルリハーサルは、事前に本番を何度も、様々なパターンで想定することで、ちょっとした想定外のことが起こっても、迷いなく体が動くようにしておく準備なのです。
メンタルリハーサルは、何度もやればやるほど、そしてリアルであればあるほど、脳のなかには刻まれていきます。
それはイコール、そういったことが起きたときに迷いなく体が動くようになるということなのです。

ただ、競技によって、このメンタルリハーサルのやり方はかなり異なります。
野球、ゴルフ、射撃、相撲など、本当に色々ですし、陸上や体操などの種目と、テニスやバスケットなどの種目でも、そのやり方は異なってきます。
メンタルリハーサルの注意点 「実現イメージ」との違い
よくある間違いは、メンタルリハーサルと、「実現(成功)イメージ」を混同してしまうことです。
実現イメージは、試合において望ましい展開(勝利)をイメージすることですが、実際には、そのような展開になることは、常に金メダルを狙える選手だったり、相手がいない競技(水泳・陸上など)の選手以外であれば、非常に稀です。
また、あがり症の選手が、まったく緊張することなく、自分の演技ができる可能性はほぼありません。
そういった意味では非現実的です。
実現イメージは、本来は、モチベーション向上のためにやるべきものなので、望ましい試合展開で活躍している自分をイメージするのはありです。
しかし、本番の緊張に慣れたり、既視体験を起こしてフローに入ったりするため、本番で力を発揮するための準備のためにやるものではありません。
メンタルリハーサルは想定力が8割 シナリオ作りに時間をかける
むしろ想定すべきなのは、現実的に起こりうる様々な「小さな事件」です。
例えば、スケート競技では、自分の滑走前の選手が転倒して、競技開始が少し遅れることは良くあることですし、ゴルフや射撃では、雨や風が急に強くなることも起こり得ます。
こういったことをどれだけ想定するかです。
ショートトラックで平昌五輪に参加した選手とは、徹底的にレース展開を一緒に考えました。
氷上の格闘技といわれるこの競技では、色々なことが起こるからです。

試合直前の休息(ダウン)の時期に、あまり体に負荷をかけることなく、本番準備ができるという意味では、メンタルリハーサルをやらない手はありません。
注意点としては、いきなり「さあ、メンタルリハーサルをやるぞ!」と思っても、イメージが中途半端になって、うまくできないことがあります。
私が勧めているのは、まずは事前に、しっかりと想定プラン(シナリオ・脚本)を作ることです。
そのうえで、できる範囲で、主観的、客観的に、本番をイメージしていってください。
平昌・北京五輪に参加したショートトラックの選手が体験談で書いてくれたように、自分ひとりでは考えられない深いところまで、一緒に考えてもらえることが、経験豊富なメンタルコーチを雇うメリットです。