芸大ピアノ科を卒業し、ソロや室内楽などの演奏活動と講師の仕事をしている塾生M(女性)さんに、メンタルトレーニング体験記をお願いして書いてもらいました。あがりで苦労している音楽家や、なかなか受講を決断できないひとの参考になればと思います。
私は長年、ピアノ演奏でのあがり症に苦しんでいました。思い起こせば中学生頃から始まっていたと思います。何かトラウマになる大きな出来事が起きたというより、小さな失敗をした本番での思いを、次の本番へ不安材料としてどんどん引きずってしまう癖があったからだと思います。うまくいく本番も沢山あったのに、失敗した時の舞台で感じた怖さの方を本番前に思い出してしまうのです。そして、歳を重ねるほどそれは大きくなり、今までは緊張してもうまくいっていたところが、最近はネガティブな感情がそのまま演奏に出てしまい、頭が真っ白になり暗譜が飛んでしまう事が増えてしまいました。この悪循環を断ち切るために、ピアノ演奏のあがり症についての多くの本を読んだり、ボディマッピングをしたり、自分の本番に対する悪い思考について書き出してみたりと色々試行錯誤しましたが、どれも私にはしっくりきませんでした。
インターネットでもピアノ演奏のあがり症について沢山検索していて、そんな中、メンタルトレーニング石井塾を発見したのです。そこには、音楽家の方たちの私と同じような悩み、そして体験談について書いてあり、メンタルトレーニングでピアノ演奏のあがり症を克服できていたことに、とても勇気づけられました。ここに行ってみたいと思い、何度もホームページやブログを読んでは、申し込みページまでいくのですが、なかなか送信ボタンを押すことができませんでした。私は初めての事に対して非常にネガティブな考えを持ってしまう性格で…。
なんだか怖いところなんじゃないか、先生はどういう人だろう、費用もそれなりにかかるし…、など色々考え半年ほど躊躇していましたが、その間も本番で失敗してしまうこともあり、やはり今自分が抱えている音楽に対する恐怖を変えたい!と強く思い、お試しコースを受けて、入塾を決断しました。
毎回のセッションは、講義+実践の形をとっていて、石井先生の解説もわかりやすく、毎回あっという間に終わってしまいます。私は、あまり自分の事を人に話すのが得意ではないのですが、先生とのセッションでは、自分でもびっくりするくらい自身の事を沢山話す事ができました。それは毎回のセッションのはじめに、先生に聞かれる、自分の感じ方の変化や、練習などにおいての「気づき」を考えるようになったからだと思います。自分についてこんなに客観的に、そして深く考えたのは、恥ずかしながらここにきて初めてでした。客観的に自分を見れるようになったこと、自己開示できるようになったこと、これらも私にとって嬉しい変化でした。
呼吸法のメンタルトレーニングでは、上手くできているかどうかがわかる専用の機械を使って自分の呼吸に集中するのですが、10分間呼吸だけに集中するのは最初なかなか難しかったです。途中で他の事に意識が向き、呼吸が乱れてしまったりするのです。ですが、根気強く毎日練習すると習得する事が出来、最初の1,2カ月の大きな成果となりました。
入塾して、メンタルトレーニングを始めた半年を振り返ってみると、呼吸法や詳細なイメージトレーニング、練習法の改善などによって本番での緊張に変化が出てきたように感じました。勿論緊張はするのですが、ルーティンや呼吸法など、自分で決めた事に集中する事によって、本番中にネガティブマインドが入ってくる隙間が減ってきたのです。石井塾で習得したメンタルスキルで、それまで足りなかった良い意味での冷静さを保てるようになったのではと思います。それまで悪い緊張をしている際に感じていた、力んで重心が上がることは無くなり、思考も呼吸も落ち着くようになりました。
また、メンタルトレーニングの本番対策以外の効果として、イメージでのピアノ練習をする事によって、より効率的に練習できるようになったことがあげられます。難しいパッセージの箇所など、何回も繰り返し行う練習方法より、頭の中の鍵盤上で指を動かすイメージトレーニングを、普段の練習にプラスする練習の方が、自分の思考もクリアになり、より安定して弾けるように私はなりました。昔、こういったイメージをやっていたことがあるのですが、これも、石井先生のご指導のおかげで改めて気付き、取り入れる事ができました。
私は石井塾に来るまで一人で悶々と悩み、躊躇して時間がかかってしまいました。一人で考える事も大切ですが、それには限界があると思います。プロのアドバイスを受けて視野が広がり、通い始めた今はもっと早い時期に来ていたら良かったな、と思っています。一人で悩んで迷われている方は、是非一歩踏み出してみる事をおすすめいたします。
東京芸術大学のピアノ科に入学できるのは毎年25名くらいだそうです。子供の頃の習い事としてピアノをやったことのある人数を考えると、甲子園に出場したり、東京大学に入学する以上に難しいといっても過言ではありません。Mさんは、中学の時から緊張しがちな性格だったにも関わらず、現役で芸大ピアノ科に入学されたのですから、それを補うだけの練習をこなしていたのでしょう。
しかし、現実的な話として、芸大ピアノを卒業しても、演奏家として活躍し、演奏だけで生計を立てることができるひとは、ごくわずか。なかなか厳しい世界です。学生時代・コンクールに出場できる頃に出会っていたら、また違った音楽家人生になっていたかもしれませんが、今、この時期に出会い、長年のピアノ演奏のあがり症を克服したことで、改めて、今後の音楽家としての目標を再設定し、地道にそれに向かって努力し、自己実現してもらいたいと思います。