演奏の緊張やあがり症

ひどい緊張で、講師演奏で何度も止まっていたピアノ教師 4年で驚きの変化とその取組方法とは?

4年ほど前に入塾したピアノ教師のFさん(アラフィフ・女性)。先日、入塾のきっかけとなった自身の教室発表会の講師演奏で、これまでで一番の演奏ができたことを報告してくれました。

本番演奏が上手く行っただけでなく、そこまでの準備の過程も本当に素晴らしく、4年前とは大きく変わりました。

Fさんの経験は、多くの音楽家、とりわけセミプロの音楽家にとって、とても貴重なものでもあり、体験談の執筆をお願いしましたが、うまく逃げられてしまったので、私が書くことにします。

講師演奏でピアノ演奏が止まるようになったきっかけとその後の経緯

Fさんは、20年前から自分のピアノ教室を運営しています。Fさんはピアニストではないので、ピアニスト養成というよりも、近所の子供たちにピアノを好きになってもらいたいという気持ちでやっているそうです。

人前で弾くピアノの演奏機会は、年に1度の、自分の教室発表会での講師演奏だけです。以前は、師匠の門下発表会なども出たこともあったそうです。

20年前に講師演奏を始めたころは問題ありませんでしたが、その数年後から、演奏途中で失敗したり、演奏が止まってしまうことが起こり始めました。

演奏が止まってしまうというのは、日本のピアノ演奏においてはかなりの屈辱な出来事です。

しかし、それがその後の10年で頻繁に起こるようになっていました。

音楽家の間ではよく知られているアレクサンダーテクニックにも、2年ほど、個人レッスンとグループレッスンにも通っていましたが、問題はあまり改善しなかったそうです。

昔と比べ、発表会当日の多忙さを理由に、講師演奏をしないピアノ教師も増えているそうですが(もしくは楽譜をみていい連弾など)、Fさんは、生徒に自分の演奏を聴いたもらいたいと、毎年、歯を食いしばって演奏準備をしていました。

しかし、入塾前の数年は、発表会の3-4か月前から、不安が増大し、深酒、食生活の乱れ、不眠、頭痛、疲労などに苦しむようになっていました

入塾したのは、ある年の教室発表会の2ヶ月前でしたが、それまでの数年と同じく、心身の不調や、不眠がひどいのでワインを毎日1本以上空けてしまうような生活を続けていました。

そんな状況では、ピアノの練習もあまり集中できず、そんな自分へのイライラが、さらに不安や焦りを煽っていました。その時にもらった申し込みメールがこれです。

ピアノの講師をしています。15年ぐらい前から講師演奏の時あがってしまい演奏ができません。あまりにもひどく毎年苦痛です。舞台で演奏するのが楽しいと思うように改善したいです。ピアノが好きなので講師演奏を続けたいと思っています。

メンタルトレーニングを始めてからの1-2か月での変化

石井塾でメンタルトレーニングを始めて、1ヶ月後には、不眠や頭痛は、披露などは、そこそこ軽減されたものの、なくなったわけではありませんでした。

それでもお酒の量も少し減りました(それでもワイン1本)。

また、自身のピアノ練習にも、以前よりは少し集中して取り組めるようになったようでした。

2ヶ月後の、教室発表会での本番は、結論からいえば、また途中で一度止まってしまいました。

難しい、心配していたパッセージではなく、全く想定外の、練習ではほとんど間違えたことのないところだったそうです。

しかし、止まってしまった後、3秒後には、比較的淡々と弾き直すことができたことや、演奏の滑り出しは、これまでにないほどの落ち着いた感じでいけたことから、メンタルトレーニングの効果に十分な手応えを感じ、受講は継続しました。

メンタルトレーニングを定期的に継続して4年、理想の準備の仕方がかなり身に付いた

それから4年。この年齢になると、まあ人生では色々なことが起こりますが(怪我や病気、家族の不幸など)、それでもその時々で、色々な課題を与えながら、一緒に前に進んでいきました。

毎年の講師演奏では、途中で止まることはなくなったものの、満足できたという演奏までには至りませんでした。この理由としては、選曲の問題だったり、怪我をしたりということがありました。

でも、月に1度のセッションを続け、とにかく色々なことを話し合いながら、少しずつ曲の準備の仕方を学んできました。

そして今年も、4月に講師演奏があり、先日のセッションで振り返りをしました。発表会直後に、メールで簡単な報告をもらっていましたが、多少のミスはあったものの、これまででベストな演奏になったそうです

ただ、私にとっては、Fさんが満足できる演奏が本番でできただけでなく、本番までの過ごし方、曲の準備の仕方が、ほぼ理想ともいえる内容だったことが驚きでした。

具体的にいえば、本番までの1週間で、Fさんは、その曲を2回しか通さなかったそうです

「通す」というのは、1曲を、最初から最後まで演奏することを言います。

これはなかなかできないことです。

ほとんどの音楽家は、本番演奏の前には、何回も、何十回も通し練習をするのが当たり前です(ごく一部のトップレベルの演奏家はしないようですが)。

しかし、今の私の考えでは、そのような反復練習は、満足感以外に得られるものは少なく、やり過ぎると、本番ではむしろ良い演奏ができない可能性が高まります。

プレッシャーのない練習環境での演奏は、本番演奏とは全く違うものだからです。むしろ、演奏回数を押さえて、その1回を緊張感を持って演奏したほうが、より現実的な本番対策になります。

また何度も繰り返し演奏することによって、技術や細部にこだわりすぎて、音楽そのものが失われてしまうというもあります。

プレッシャーがかかるピアノ演奏本番への理想の準備、Fさんが取り組んだ内容とは?

通し練習を減らす代わりに、Fさんが1週間前にやったのは、おおきく次の3つです。

  1. よりよくしたいパッセージの部分練習
  2. 脳内で演奏するイメージトレーニング
  3. 演奏曲とは違う曲の練習

とりわけ、このイメージトレーニング=脳内演奏で、自分はこの曲を演奏できるということを確認できたので、実際にピアノを触らないでもいられたそうです。

演奏をイメージだけでできるようになるために、入塾後はしばらく時間をかけてトレーニングしていきます。自己流でやっている方も少なくありませんが、正しくできるように指導しています。

このような準備のおかげで、本番当日、生徒の発表会でばたばたしてしまったあとでも、かなりの余裕を持って、本番演奏を迎え、これまでにないほどの緊張感の少なさで演奏に入り、そのまま弾き終えることができたそうです。

4年前まで、ピアノ発表会が近づく3-4か月も前から、気分や体調が悪くなり、処刑台に向かう気持ちに陥っていました。

しかし、発表会は生徒たちの晴れ舞台でもあり、ピアノ教師としてきちんと振る舞わなければならない場でもあります。長く、その葛藤の中で苦しんできましたが、これからはもっと気持ちを楽にして、毎年発表会を迎えられるようになるでしょう。

先日の報告によると、これまで教室発表会が終わると、心身ともに疲れ果てて、教室もしばらくお休みし、ピアノもほとんど触らないというような生活になっていましたが、今年は、もう早速、新しい曲に取り組み始めたそうです。

さらに、演奏曲が偏らないように、エチュード、バロック、古典、ロマン、近現代など、ジャンルの異なる曲を選んでやっているそうです。これは本当に素晴らしい練習です。

演奏家が結果が出せる理由 それはピアノがフローを体験しやすいから

ここまでFさんが変わることができたのは、やはりピアノや楽器というものが、自分の能力に見合った努力をしていれば、フローを体験しやすいものであり、どのレベルにいても、年齢を重ねても、いつまでも成長することができる素晴らしいライフワークだからでしょう。

フローとは、何かに没入して時間を忘れる楽しい体験のことです。ピアノを始めた頃、自分で上達していると感じていたころ、あなたはこのフローを何度も体験していたはずです。

10年以上も前から、私にとって、クライアントの支援というのは、ただあがり症を軽減させることではなく、あがりの停滞サイクルから脱出させて、成長の好循環=フローの成長サイクルに導くことでした

下のイラストは、10年前に出版した拙書「ここ一番に強い自分は科学的に作り出せる!」から。

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音楽を楽しめている演奏家は、自然とこのフローの成長サイクルを作れているのですが、なんらかのきっかけで(本番トラウマや、対人トラウマ、間違った練習方法など)、負のサイクルに陥ってしまうこともあります

少し時間はかかりましたが、Fさんも、やっとフローの成長サイクルに戻ることができたのかと思います。

ここまで変わるのに4年かかりました。それが長かったのか、短かったのかは、わかりません。もちろん変化は徐々に起こっていたのでしょう。しかし、4年かけて築いたものは、なかなか元には戻りません。

Fさんのピアノ人生は、まだ20年以上続きます。あとは自分の努力次第で、何が達成できるか決まる状況になりました。これからもしばらく、月イチでのセッションを続けながら、この成長サイクルを維持、改良していくことになるかと思います。

これまで多くのピアニスト、ピアノ講師、音大生、ピアノ愛好家を教えてきましたが、ピアノ好きのひとは本当に真面目な人が多く、石井塾の「地道にメンタルスキル(呼吸法・イメージ)を高める」メソッドとは相性が抜群です。


Fさんに指導した練習方法の考え方については、過去のブログ「メンタルトレーニングで鍛える「本番力」 もうひとつの重要なアプローチ」を参照ください。

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