スポーツで、プレゼンで、音楽の発表会で、普段練習ではできることが、本番になるとできなくなってしまうのは、なぜでしょうか?
なかには、そんなに緊張せずに、練習と同じように本番でも普通にできる人がいます。
しかし、そんな人は、ごく少数で、かなり場慣れしているか、もしくは、そう見えるだけで、実はどこかで緊張していて、本人も内心では「どきどきだった」と思っているものです。
また、ビジネスでの発表やプレゼンであれば、わずかなパフォーマンスの差は結果や勝敗に直結しませんので、鈍感な人は緊張に気づかない人もいるかもしれませんが、それが精密な動作を求められるゴルフや楽器演奏などでは、パフォーマンスが成績に大きく影響するので、よりはっきりと違いが感じられます。
基本的には誰でも、練習よりも本番のほうが、パフォーマンスの質は下がります。
なぜなら、私たちの脳の仕組み上、そのようにできているからです。
いつもとは違う場所や、プレッシャーのある状況においては、脳の出力パターンが変わり、脳は、普段の通りのアウトプット(技能や思考)ができなくなります。
そして、いつもと同じようにできないことが、新しい不安とストレスになるので、さらに出力パターンが変わり、もっとできなくなります。このような悪循環に陥ってしまったことがある人は少なくないはずです。
上級者であればあるほど、アウトプットしたい技能は自動化されているので、その分、プレッシャーの影響を受けにくいのです。
しかし上級者ほど、非常に高いレベルでの再現性を求められので、そのほんのちょっとのパフォーマンス低下が成績に直結するので、悩んでいる人は多いし、悩みも大きくなります。
プロ野球の名将・野村監督が、以前、雑誌のインタビューに答えていました。
「プロ球団に入団できる投手は、ごく一部の超一流選手を除いて、ブルペンで投げるボールに大きな差はない。成功するかどうかは、バッターに投げるときに、ブルペンと同じボールを投げられるかどうかで決まる」
プロ野球選手でもそうなのです。
程度の差はあれ、本番と練習ではパフォーマンスに差が出てしまうのは、脳の問題で、基本的に避けられないのです。
ただ、その差には、性格、考え方、競技特性、トラウマなどによって、個人差が生じます。
本番では本当にめためたになってしまう人から、パフォーマンスが許せる範囲で落ちてしまう人まで。それを繰り返しているうちに、どんどん本番で弱くなってしまう悪循環に陥ってしまうのです。
しかし、諦める必要はありません。
その差を埋めたり、悪循環から抜け出すことは可能にするのがメンタルトレーニングです。
私は2009年に『ここ一番に強い自分は科学的に作り出せる』という本を出してから、本番で力が発揮できずに悩んでいる非常に多くのトップアスリートや音楽家、社会人に、この本番に強くなるメンタル指導をしてきました。
メンタルトレーニングの本を出している多くの著名トレーナーは、そのほとんどが、個人指導ではなく、セミナーなどで主に生計を立てていますが、私はほぼ個人指導のみを行っていてるので、恐らく年間で有料で個人指導する人数は日本でも有数なはずです。
それを15年近く行ってきています。そして、このような経験の中で、指導内容も少しずつ変化が出てきています。

今、私が今考える「本番に強くなる方法」は、大きく分けて2つの方法があります。
ひとつは心理的な準備をすること、もうひとつは普段の練習から本番に強くなる練習を取り入れることです。
心理的な準備は、いわゆる一般的なメンタルトレーニングであり、呼吸法やイメージ、ルーティンなどです。
石井塾に入塾したら、まずはここから始めます。
あがり症やイップス、軽度のトラウマ(特定場面での苦手意識)を抱えているアスリートや音楽家、社会人には、技能レベルに関わらず、まず一番効果がある方法だからです。
そして、効果が出るまでの時間は人それぞれですが、1-2回の失敗でめげず、地道にメンタルトレーニングを続けたひとのほとんどが、「もっと早く来ればよかった!」という結果を得ています。
アマチュアのほとんどは、それで大満足して卒塾します。
しかし、ここにきて私が重要視しているのは、もうひとつの「本番に強くなる練習方法」です。
それは簡単に言えば反復練習をできるだけ減らすことです。
これはちょっと意外に聞こえるかもしれませんし、メンタルコーチの専門分野ではないと思われるかもしれません。
しかし、今では私はこのような練習方法の見直しこそが、真の実力を高め、それを本番で発揮し、長い意味で成長成功するためにとても重要な要素だと考えています。

というのも、反復練習は上達の必須条件と考えがちですが、反復練習をすることで本番力が下がるということが多くの研究で実証されています。
ゴルフの例がわかりやすいですが、実際の本番では、ドライバーを連続で打つことはありません。ドライバーを何球も連続で打てばナイスショットが増えてきますが、それが本番でできる可能性は大きく下がるのです。
これは野球でも同じことで、打撃投手にずっとカーブを投げてもらえば、カーブを打つコツをつかみ、しばらくは快音を響かせることができます。
「これで俺はカーブの打ち方がわかった」という自信もつきます。しかし、本番では「カーブがいつくるかわからない」のですから、本番では、体は思ったように動いてくれないのです。
このような研究をしっかりと理解したうえで、私は今では、反復練習をできる限り減らし、より本番に近い練習環境をできる限りつくるように指導しています。
このような練習方法は面倒くさいし、その日の練習の「満足感」を下げますが、長い目で見ると「真の上達」につながり、本番でできる可能性が高まるのです。
こういったことをしっかり理解してもらい、焦らずに地道に取り組むことも、本番力を高めるメンタルトレーニングだと考えています。
このような練習方法の見直しの重要性を理解できるアマチュアは少ないのが現実ですが、私の指導で結果を出したトップアスリートや音楽家は、素直に取り組んでくれて、そして着々とその効果を報告してくれています。
競技への情熱を持ち、練習量と練習時間はだれにも負けないのに、どうしても本番で結果が残せない。
そんなアスリートは、練習方法を間違えている可能性があります。
それは楽器演奏でも受験勉強でも同じです。
反復練習や基礎練習を間違った形で丁寧にやりすぎている可能性が高いので(これはイップスの原因にもなりかねません)、石井塾で新しい発想のもとに上達計画を作りませんか?
本人はなかなか気づけないことも多いので、ご家族がご覧になっているのであれば、ぜひ後押ししてあげてください。