スポーツや演奏技能の向上、もしくは受験勉強や資格試験のために、学習計画を立てて、習慣化することはとても大事なことです。しかし、往々にして起こるのが、計画を立てたものの、なかなか実践できないということです。先日も、以前に本番対策のメンタルトレーニングを受講していた音楽家から、こんな問い合わせを受けました。
これまでの経験上、音楽家でも、ピアノや弦楽器(ヴァイオリン)の演奏家は、普段からとても計画的かつ長時間練習している人が多いのですが、管楽器や声楽の方たちは、なかなか練習習慣をつけることができずに、モヤモヤしている人も少なくありませんでいた。この方もピアノや弦楽器ではないです。
実際のところ、練習計画を100%コントロールできている人というのは、本当にごくわずかですし、大切なのは、単なる反復や机に向かっている時間ではなく、集中して脳に負荷をかけているか?なので、計画を習慣化できなくても、成功している人は大勢います。よく、朝早く起きる習慣こそが、時間を有効に使い、人生を成功させる秘訣のように語られることがありますが、研究では、朝型の人(ひばり型)と、夜型の人(ふくろう型)では、それほど収入に差がないことが分かっています。夜型の人(ふくろう型)は、しかるべきときに集中してやっているのでしょう。クリエイターなどはそんなイメージですね。
とはいえ、一流を目指している人はもちろん、今あるところより、さらに一歩上に行きたい人にとっては、やるべき学習計画を遂行できれば、さらなる成長や能力開発につながることは間違いないでしょう。今回は、そこにどんなメンタルトレーニングができるか解説したいと思います。
まずは計画した学習をなぜこなせないのか?、なぜ行動改善ができないのか?について考えてみましょう。
(1)自分の能力以上の練習計画を立ててしまっている
これまで勉強する習慣がない人が、一念発起して弁護士試験を受けるために12時間勉強する計画を立てても、それはほとんど実行不可能です。一流のピアニストは10時間以上も練習できますが、アマチュアのピアノ愛好家はそれができません。長時間練習できるかどうかも、過去の経験の積み重ねなのです。フルマラソンを何度も完走している人が、毎日20キロのロードワークを課すことは普通ですが、運動経験のないメタボな人が、毎日20キロ走ると宣言したら、それは普通に無理ですよね?
(2)その練習計画を実行する上で必要な動機付けがされていない
医者になって「こんなことで困っている人を助けたい!」といったような、はっきりとした目的を持っている人は、医学部受験のために、1日12間の勉強計画を実行することができますが、医者は経済的に安定しているからくらいの目的意識だと、なかなか勉強を続けることはできません。やはり、自分がどんなことをしたいのか?について、しっかりとした動機づけを持っていることは重要です。その時の思いつきだったり、そうありたいくらいで、実行が難しい練習計画を立ててしまうのです。学習計画を立てたとき、そのモチベーションは一番高い状態です。ところが、日が経つにつれ、通常は、それが低くなっていくので、学習計画の遂行ができなくなります。
(3)不安やストレスなどが原因で、気持ちが落ち着かず、練習に集中できない
何らかの不安やストレスを抱えている状況だと、気持ちが落ち着かず、集中力は下がります。その不安やストレスが、一時的な不運や、自分の人間関係であれば、その理由がはっきりしているので、それを解決するために動くことは可能でしょうが、問題となるのは、そういった明らかな原因がない場合でも、気持ちや集中力が上がらないことがあることです。なんか漠然とした不安があり、集中力やモチベーション不足に陥ります。これらは簡単に言ってしまえば、気分の問題です。1日24時間において、また1か月において(特に女性)、さらには1年を通して、私たちは大きく気分の影響を受けるものです。目標や練習計画を立てたときには、この気分が安定している時で、その後に気分は大きく変動するので、徐々に練習を実行できなくなります。
それでは質問に戻って、メンタルトレーニングやコーチングで練習の習慣づけは可能なのでしょうか?私は「可能」だと考えます。ただ、メンタルトレーナーやコーチによって、そのアプローチ方法はかなり異なります。ブログでこれまで何度も書いていますが、心理支援職(コーチ・カウンセラー・メンタルトレーナーなど)は、それぞれの経験や背景が異なり、支援のためのメソッドは、認知思考系・暗示催眠系・行動感覚系の3パターン、もしくはそのハイブリッドに分かれます。
認知思考系のコーチやメンタルトレーナーは、「本人の心の中に正しい前向きな答えがある」という考え方であり、コミュニケーションをとおして、その人が「なぜその計画を立てたのか?それでどういったことをしたいのか?」について、より深い洞察や気づきを得られるようにすることで、練習計画の見直しを促したり、習慣づけを支援します。
暗示催眠系のコーチやメンタルトレーナーは、夢は絶対にかなう!と毎日100回、鏡の前で言うようなアドバイスを行ったり、それが実現しているイメージに催眠誘導したりすることで、やる気を高め、維持させることで、習慣付けを支援します。、
行動感覚系のコーチやメンタルトレーナーは、その練習計画の内容を精査して、実現可能なレベルから始めさせて、成功体験を重ねさせるような指導をしたり、日常的な不安やストレスをコントロールするための呼吸法や瞑想などを指導したりします。
石井塾では、まずは行動感覚系のメンタルトレーニングから入り、徐々に認知思考系のメンタルトレーニングを組み合わせていきます。暗示催眠系のメンタルトレーニングはほぼ使いません。その理由は、暗示催眠系が役に立たないということではなく(むしろ即効的な効果は非常に高い)、単に塾長が得意でないのと、訓練で高められる「メンタル技術」だとは思わないからです。暗示催眠がかかるかは、本人の資質が大きいのです。
つまりは、石井塾では(2)の動機づけを高めさせることが、あまり得意ではないということになります。だからこそ、メンタルトレーニング石井塾では、もともと動機づけが高いことが前提で、「やる気が出ないので、メンタルトレーニングで高めたい」といった相談申し込みはお断りしています。この音楽家からの問い合わせにも、練習の習慣付けを行う動機づけが何なのか?例えば、コンクールの結果、安定して演奏会に参加できるようになり、そのための練習と多くの曲の勉強が必要になったとか、プロオケのオーディションを本気で目指すことにした、とか、何か変えたい「きっかけ」があるのかについてヒアリングしました。
というのも、つまるところ、練習計画の習慣付けという「行動改善」を専門家の力を借りて、今度こそは成し遂げたい!という意欲・決意があるかどうかが大事なのです。
それがあれば、あとは私の得意分野なので、不安やストレス、気分をコントロールするための呼吸法やイメージなどを指導していくと同時に、塾生の取組種目、レベル、使える時間などを詳しくヒアリングして、現実的な練習計画を一緒に立てたり、見直したりしていきます。また、本当に身に付く練習計画の立て方を、専門的な見地からも指導できます。継続できるかどうかは、自分が成長・変化していると感じられるかが、とても大きいので、結果をだせる取組を継続的に続ける必要があるからです。
>> 反復練習の「神話」をメンタルトレーニングで打ち破ろう!
ただ繰り返しになりますが、練習計画を100%コントロールすることは難しく、むしろそれができる人は、強迫神経症(例えば、1時間毎にきちんと手を洗わないと気が済まない)といった病的な精神疾患と紙一重なところもあります。そう考えると、練習計画を立てるにしても、あまり細かくやりすぎると、自分を苦しめることになってしまうので、むしろ私は、80%ルールなど、8割守れれば成果が出る計画づくりを勧めています。こういったのも「行動系」のメンタルトレーニングのアプローチです。
いずれにしても、メンタルトレーナーとの相性が大事なので、自分が信頼できると思える人を見つけることが、一番大事なことかもしれません。