反復練習の「神話」をメンタルトレーニングで打ち破ろう!

今回は「反復練習」についての話です。あまりメンタルトレーニングと関係ないように思えるかもしれませんが、私がメンタルトレーニング指導を長年行っている中で、塾生を、あがり症や過緊張の克服に導くこと以上に大事なテーマとなりつつあることです。少し小難しいところや、自分の直感や経験と異なるところがあるかもしれませんが、誰にとっても大事なことなので、ぜひ集中して読んでほしいと思います。

ゴルフでも、ピアノでも、バレエでも、何らかの技能を習得し、上達するために必要なことは、反復練習です。また、英単語を覚えたり、数学公式や歴史年号を覚えるにも、繰り返し反復して勉強することが、学校や教室で当たり前に行われています。反復練習は学習の基本であり、教師やコーチはとにかく反復練習の重要性を強調するし、私たちの多くは、地道で継続的な反復練習で、何事かをマスターした経験を持っています。反復練習こそ、もっとも有効な学習方法であることに疑いを持っている人はほとんどいないでしょう

しかし、この常識・神話が少しずつ崩れつつあります。簡単に言ってしまうと、反復練習で習得された技能(記憶)は、短期的に消滅しやすく、また少し環境が変わって、臨機応変に対応しなければならない場面だと、その技能を発揮できなくなることがわかってきているのです。

例えば、テニスのバックハンドが不調なときに、1日中、バックハンドばかり反復練習すれば、短期的にはバックハンドのコツを覚え、うまく打てるようになります。しかし、そのバックハンドは結局長続きせず、試合のような大事な場面では、またダメになる可能性が高いのです。試験に向けて一夜漬けで勉強したことが、試験が終わるとすぐに忘れてしまうのと同じことです。

こういったことが、実際に記憶がどのくらい残るのか?といったことを調べる実証研究からも、確実に証明されつつあります。

もちろん反復練習には効果があり、ある技能の練習を繰り返せば、もちろんある程度はできるようになりますし、全てのアスリート、ダンサー、音楽家はそうやって練習しています。しかし、学習科学の実証研究から見出されたことは、そういった反復練習は、長い目で見ると、非効率であり、大事な本番では再現性が低くなるということです。

なぜ非効率なのか?反復練習の最大の問題点は、反復練習をしているとき、あまり工夫したり、考えなくなることです。その反復練習が、文字通り、ただの繰り返し、ルーティンになってしまうのです。脳科学からわかっていることは、記憶が定着するには、脳に負荷をかける必要があります。簡単なことを繰り返しても学習は進まず、難しいことを集中して、工夫しながら繰り返すと、学習は進むのです。しかし、反復練習だと必ず途中で脳はさぼりだして、工夫をしなくなるのです。テニスの例でいえば、さっき打てたバックハンドをとにかく打っている状態になります。そのうまく打てたバックハンドを繰り返すことで、脳に刻まれていると私たちは考えてしまいがちですが、実はそうではなく、脳は楽をしているので、技能としての記憶はそれほど刻まれないのです。

成功したアスリートや音楽家が、反復練習の大切さを訴えることはよくあることです。しかし、私の考えでは、トップに上り詰めたひとは、反復練習の中でしっかりと意味や課題を見つけて、他の人とは頭の中では違うようにやっていたのだと思います。テニスでも、バレエでも、受験勉強でも、音楽でも、これまでみんな反復練習してきましたが、力の差が出るのは、そういったところの違いなのでしょう。つまりトップの人たちは、反復練習するにも、頭の中では単なる繰り返し練習ではなかったのだと思います。強靭な集中力、モチベーション、好奇心、チャレンジ精神、分析力などがなければ、毎日の反復練習の中に意味を見つけて、やり続けることは難しいです。

それではどうしたら良いのでしょうか?

最初から反復練習をしないことを決めてしまえば良いのです。そうすれば否が応でも、毎回考える必要が出てきます。私の指導を受けに来ているアスリートや音楽家には、強くそれを勧めています。簡単に言えば、脳がさぼれない状況を作るのです。指導法が昔から研究されつくされているゴルフではよく言われることですが、ドライバーを連続して打つ練習をするのではなく、アイアンやウェッジといった、目的や距離の違うショット練習を交互にやるようにするのです。近い距離のピンを狙うウェッジと、飛距離を狙うドライバーショットでは、打ち方の感覚はかなり異なります。ですから、毎ショット、打つ前にポイントを思い出して考える必要性が生じます。これが重要なのです!!!

音楽でも、難度の高い同じパッセージをひたすら繰り返すのではなく、難度の高いパッセージを複数用意して、それを順番にやるのです。せっかくさっき少しできるようになったパッセージを離れるのは勇気がいりますが、長い目で見れば、そのほうが早く1曲を仕上げられるようになるし、本番で緊張しても弾けるようになるのです。

また、敢えてしばらく練習しないで時間をおいて、一回忘れるということも効果的と考えられています。なぜなら忘れたことを思い出すことは、脳に負荷がかかるからです。間隔を空けるということは、さぼることではなく、脳に負荷をかけて記憶を刻む良い方法なのです。本番で使える技術を養うためには、脳に負荷をかけることが大切であり、そのために、どのような練習方法を立て、中長期的に実践していくことが大事です。

また、脳に負荷をかけるという意味では、イメージトレーニングが有効です。イメージトレーニングは、実際に体を動かす練習よりも難しいです。野球選手に素振りを100回させたら苦もなくできますが、イメージで素振り100回できる人はほとんどいないと思います。実際の体の動きをイメージし続けるには、そもそものイメージスキルだけでなく、とても高い集中力が求められるからです。実際の素振りでは、後半は惰性で振っているだけのケースが多いというのが本音でしょう(それでも体力向上にはつながりますが)。

このような知識を得たとしても、実際に反復練習をやめることは難しいものです。一番大きな理由は、これまでの練習方法を変えることへの抵抗感や恐怖感にあります。人間はこれまでやってきたことを見直すには、多大なる労力を必要とします。毎日練習することが当たり前だと考えていたことをやらなくなるのは、また下手になってしまうのではないかという恐怖と戦うことでもあります。

また、具体的な理由では、反復練習をしたほうが、とにかくその日は確実に上達する可能性が高く、満足感を得られやすいからです。ドライバーを連続で打っていれば、後半は上手く打てるようになります。しかし、違うクラブを順番に打てば、その日のうちに満足いくドライバーショットが打てる可能性は小さくなるからです。もし私が、グループや集団に、音楽やゴルフを教える教師だとしたら、まず確実に反復練習を勧めます。そのほうが生徒たちの満足感は上がるし、継続もしやすくなり、収入が上がるからです。しかも指導も楽です(笑)。

反復練習をやめることができない別の理由は、どのような練習に変えればよいかわからないからです。反復練習をやめたほうが良いといっても、全く反復練習をしないわけではありません。習得したい技能のレベルや状況、複雑さによって、ある程度の反復練習は必要な場合も多くあります。

ゴルフでいえば、スイング改造中であったり、初心者など、どのように打つべきなのか明確なイメージがなければ、とにかく連続で何回もドライバーを打ってみることは大切です。何回も打ってみて、その中で「これだ!」という新しい感触をつかめることがあるからです。また、ピアノやバイオリンといった楽器演奏でも、譜読みの段階で、あるパッセージをどのような指使いにするか決まっていないときなども、とにかく色々と試してみることは必要だし、その時に繰り返さないことは時間のロスになります。

しかし、私の仕事はひとりのプロフェッショナル(の卵)にマンツーマンで向き合い、その能力発揮・能力開発を支援することです。クライアントと長く良い関係を築くには、短期的な成果だけでなく、中長期的な成果もあわせて実現させる必要があります。短期的な成果は、過緊張のコントロールを実現させることで達成できることがほとんどで、それは私の得意分野ですが、中長期的に成果を実現するための方法を、これまで長く模索してきました。

この10年以上、石井塾のメンタルトレーニング指導の中心はイメージトレーニングでした。イメージトレーニングの方法は多数あり、それをそれぞれの塾生の課題に合わせて、アスリートや音楽家の、能力向上を支援してきました。しかし、まだまだ十分だとは感じていませんでした。そこで、学習科学の考え方を体系的に学習し、去年くらいから、それを普段のメンタルトレーニングセッションの中に取り入れています。つまりそれは、中長期的に技能向上を実現するには、どのような練習方法を行うべきかということの指導です。目先の変化だけに捉われず、我慢強く練習計画を立てて実践し、イメージトレーニングを行うのも、能力発揮の支援であり、メンタルトレーニングなのです。

難しいのは、石井塾には様々なプロフェッショナルがいて、その技能も、年齢も、レベルもモチベーションも、異なります。そうなると、練習方法も当然、みんな異なるわけです。スポーツでは、ゴルフと相撲は異なるし、演奏でも、ピアノと声楽では全く違ってきます。反復練習はどの程度まで行うべきなのかも、塾生によって異なります。今の段階では、塾生と一緒に考えながら、最適な練習方法を模索しているのが実情ですが、このような指導経験を重ねていけば、逆に色々な分野の良いところを抽出した、良い練習方法の指導ができるようになるのではとも考えています。少なくても、イメージトレーニングに関しては、このメリットを生かして、ほかの誰もできない指導法を確立できています。

新しい学習理論は、欧米では少しずつ受け入れられるようになっています。私が参考にした書籍も、米国のアマゾンではベストセラーになったほどです。でも日本ではあまり売れ行きは良くないようです。やはり日本は精神論・経験論が強く、多くのコーチや教師は抵抗感を示すでしょう。しかし、こういった新しい考え方を受け入れられるコーチや教師もいるはずです。石井塾に来るプロフェッショナルたちも、普段は先生でもあるのだから、こういった学習理論を自分で体験して、今度はそれを自分の生徒たちに実践してほしいとも思います。

ここまでしっかり読んでもらっても、まだピンとこない人もいるかもしれません。しかし、反復練習をできる限り少なくして、想起練習(イメトレ)・間隔練習・交互練習・多様練習を組み入れることで、本番で発揮できる能力が高まることに、もう疑いはありません。あとはやるかやらないか、そして、それをどうやるか?です。後者が難しいのですが、それを支援するのが、私のこれからの仕事の中心になってくると考えています。

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