長くスポーツに取り組み、周囲から「お上手ですね」といわれるレベルであっても、実はあがり症というアスリートは少なくない。年齢、性別にかかわらずだ。
あなたも「いつも練習でできることが、あがりのためにできなくなってしまう…。この過緊張がなんとかできれば、もっと上位を目指せるのに…」と悔しく思っていないだろうか?
これまで自己流で深呼吸くらいはしたことがあるだろうが、そんなあなたは、一度、レゾナンス呼吸法にじっくりと取り組んで欲しい。そして、レゾナンス呼吸で、いつでも平常心を再現できるようになれれば、いつも練習でできている技術を試合で発揮できるようになる。
少し前の話になるが、全盛期の浅田真央選手が、キムヨナ選手とのライバル対決を制した試合で、演技直前に深呼吸を行っていた。しかし、ただ直前に行うだけでなく、もっと計画的にレゾナンス呼吸を実践活用することで、スポーツ本番でのあがりをコントロールできるようになるだろう。
レゾナンス呼吸の基本トレーニングは下記を参照のこと。
トップアスリートも呼吸法をやっている!全盛期の浅田真央選手の深呼吸
下記の文章は、塾長書籍「ここ一番に強い自分は科学的に作り出せる」からの抜粋です。オンライン登録(無料)すれば、レゾナンス呼吸について体系的に学べる当該書籍を無料ダウンロードできます。
少し前の話ですが、2008年の女子フィギュア界は、浅田真央選手とキムヨナ選手のライバル対決もあり、大いに盛り上がりました。12月に韓国で行われた最終戦グランプリファイナルで、浅田選手は、ショートプログラムの2位から大逆転で優勝をつかみました。
大会翌日の番組の、浅田選手へのインタビューで知ったのですが、今回、決勝の直前に、プレッシャーの打開策として「深呼吸」を何度も大きく行ったそうです。実際に、決勝当日の映像では、演技が始まる直前に、浅田選手が大きく息を吸っているシーンが残っていました。深呼吸によって、体の緊張が緩和されたそうです。
一部のトップアスリートにしか到達できない精神論(精神的境地)とは違い、浅田選手であろうと、一般社会人であろうと、呼吸法のような「体に働きかける方法」は、誰にでも効果があります。
ただ、私にとっては、浅田選手ほどのトップアスリートが、自己流の深呼吸(呼吸法)をしていたということが驚きでした。そして、あの自己流の深呼吸で結果を出したのですから、やはり浅田選手の実力は相当なものだと感嘆しました。
どこが自己流なのかというと、レゾナンス呼吸の実践のときに解説したように、呼吸をするときに力が入り、「肩があがってしまっていた」のです。これは柔らかい自然な呼吸できていないときに起こる現象で、その場合、緊張のブレーキ効果が弱まります。
また、本番直前に深呼吸(呼吸法)を実践しても、効果は限定的です。普段から繰り返し練習をすることで、体がレゾナンス(平常心)を覚え、本当に緊張する場面でも、レゾナンスがすぐに再現されるようになります。
1ヵ月後、平常心メソッドを身につけたあなたは、浅田選手以上に、上手に試合前の緊張をコントロールできるようになるでしょう。
スポーツの試合前
元来からのあがり症のひとだけでなく、大事な大会を控えている、最近調子を崩しているスポーツ選手の多くが、試合が近づくにつれ、ついネガティブに考えすぎてしまい、不安を大きくしてしまっています。
これまでの努力を実らせたい、でも力を発揮できるだろうか?相手はどんな戦略を取ってくるだろうか、明日の調子はどうだろうか?あの演技がまだ未完成なので失敗してしまうかも・・・、こんなことが次から次へと浮かんできてしまうものです。このような結果として、試合前日になると眠れなくなってしまうスポーツ選手もすくなくありません。
このような状況でよく語られる経験論は、「何も考えるな」というものです。しかし、どうやったら「何も考えない」でいられるのでしょうか?何も考えない、というのはとても難しいことなのです。
ロンドン大学の教授が行った有名な「思考抑制」実験があります。その実験では、参加者たちに「白熊」の写真を見せたあとに、3分間、その白熊について考えないように依頼し、考えてしまったときには挙手をしてもらいました。すると、すぐに、ほとんどの実験参加者の手が挙がったのです。
白熊ですら、頭から離れないのです。ましてや、大事な試合を明日に控え、その試合について「考えるな」というのは、的確なアドバイスとは思えません。しかし、多くのコーチ・監督は、こういった経験論で指導するので、多くの選手が途方に暮れてしまっています。
試合前につい考えすぎてしまうときにはレゾナンス呼吸を行って、意識を体への意識と、呼吸で埋めてください。つまり、考えないようにするのではなく、レゾナンス呼吸に集中することによって、考えられない状況を作るのです。
レゾナンス呼吸によって平常心を再現することで、考えすぎてしまうことを防ぐと同時に、体のバランスが改善していきます。心拍のレゾナンス状態=平常心はスポーツ競技を行う上で、より理想的な生理的状態といえるので、一石二調の効果をもたらします。試合前につい考えすぎてしまうときにはレゾナンス呼吸。これを忘れないようにして下さい。
試合中の応用
多くのスポーツにおいて、昔からルーティンの重要性が指摘されています。ルーティンとは「決まりきった段取り」という意味で、大リーグ中継をご覧になっていれば誰もが、イチローが1球毎に行う独特の「動作」に気がつくと思います。バットを立てたり、肩袖を持ち上げたりするあの「しぐさ」です。
イチローはそれだけでなく、試合前に人一倍ストレッチングに時間をかけたり、試合後に入念にマッサージを受けたり、バットやグラブを特別丁寧に扱うことでも有名です。イチローの強靭な精神力の大きな理由のひとつが、彼の行う「ルーティン」にあります。
イチローほどの天才でも、結果が出ない時期が続けば「迷い」が生じます。「迷い」は心の隙間に入ってくるものです。「迷い」は、本能的・直感的プレーの大敵で、この隙間を埋めるものが「ルーティン(決まりごと)」なのです。「迷い」は雪だるまのように自然に膨らむ性質を持っていて、これが厄介なのです。
もしあなたが平常心=レゾナンスを自らの競技に応用し、オリジナルの「平常心ルーティン」を作ることができれば、それは本当に素晴らしい武器になるでしょう。すべての競技の応用例を紹介することはできませんので、本書ではゴルフを例にして、簡単に紹介してみたいと思います。
<ゴルフの一般的なルーティン>
- 素振りをする
- ボールの後ろに立って方向を確認する
- アドレスに入り、ワッグルをする
- スイングを開始する
<ゴルフの平常心ルーティン>
- 素振りをする
- レゾナンス呼吸を開始する
- レゾナンス呼吸をしながら方向を確認する
- レゾナンス呼吸のリズムにあわせて、アドレスとワッグルをする
- 呼吸を止めてスイングを開始する
ルーティングは複雑になりますが、その複雑性によって余計な考えが入り込む余地をなくすことができるようになります。また、スイング開始前に15-30秒程度のコヒーレンス呼吸の時間を作ることで、スイング時にあなたはより理想に近い生理バランスを達成しているはずです。
試合後の応用
通常、私のところにスポーツ選手がやってきて平常心の指導を受ける場合、これまで説明したような「試合前」か「試合中」のあがり症の解決策を求めています。
しかし、これまで他の事例でも紹介してきたように、試合前・試合中にだけ、レゾナンス呼吸で平常心を再現するのでは不十分です。試合後の興奮状態を鎮静化するために、レゾナンス呼吸をしっかり行うことで、不本意な試合結果のあとの「落ち込み」を乗り切ることができるようになります。
仕事でも同じことが言えますが、スポーツでは否が応でも結果に左右されます。運不運がつきものなのに、悪い結果、思わぬ結果に心理的に引きずられてエネルギーを浪費し、そのまま調子を崩し、長いスランプに入ってしまう選手があとを絶ちません。
大切な試合では必ず緊張するように、悪い結果には必ず落ち込みます。大事なことは、極度に緊張しないことであり、極度に落ち込まないこと。あなたも平常心の再現法を身につければ、それができるようになります。そして、これが余計なトラウマを作らない秘訣なのです。
次の事例は、私がメンタルトレーニング石井塾で指導しているアスリートのものです。
事例:男子プロボウラー
ある若手プロボウラーは、プロとして初めて参加する公式戦「千葉オープン」の予選前日、こう呟きました。
「俺は恥をかくためにプロ選手になったのか・・・」
聞くと、この2週間ほど調子を崩していて、前週の非公式戦でもイージーミスを連発してしまい、予選敗退してしまったそうです。また、試合前日の練習でもなかなか調子が上がらず、明日の本戦予選を突破する自信が全くない、と話してきました。
彼の良いところは、とても真面目で、一生懸命なところです。座右の銘は「努力」。メンタル指導を受けるために、彼は毎回遠方から2時間かけて、私の事務所にやってきます。しかし、そんな真面目な性格が、ときには自分自身を追い詰めてしまうのです。
そんな彼に、私は「明日は明日の風が吹く」というアドバイスだけ送り、今晩は、ただひたすら丁寧に、平常心メソッドを行うように指導しました。少なくても平常心メンタルトレーニングをやっている間は、明日のことは考えられないからです。
結論からいえば、彼はその翌日、まず、シード権のない選手が出場する選抜予選を突破(125名中40位まで)し、シード選手が登場する本戦予選(120名中48位まで)、さらには準決勝進出(48名中28位まで)を果たし、シードプロが上位を独占する中、15位という成績を残しました。
大会直後は、あと少しで、12位までの決勝進出を逃したことを残念がっていましたが、しばらくすると、そうそうたるシードプロと互角に戦えたことが、大きな自信につながったし、同時に「プロになったんだ!」という実感がふつふつと湧いてきたそうです。
彼は次の公式戦「ジャパンオープン」でも、シードプロに交って14位という成績を残し、さらに自信を深めていました。
彼がはじめて私のメンタル指導を受けにやってきたのは、公式戦の出場枠をかけた「トライアル予選」の3週間前でした。その「トライアル予選」で上位に入らないと、「選抜予選」に出られない。でも、このままでは実力を発揮できる自信がない、前回の「トライアル予選」も緊張してだめにしてしまった、とのことで、知人の紹介でやってきたのです。
時間が限られていたので、彼用のメニューを作成し、ひたすら当日まで、平常心メンタルトレーニングを実践するように指示しました。精神論やプラス思考などは一切しませんでした。
「トライアル予選」の当日は、朝からひどく緊張してしまい、いきなり「130」という、プロとしてはありえないスコアを叩いてしまったそうです。アベレージが210-220というところで戦っているプロの世界では、このスコアはほぼ致命傷であり、仲の良い先輩プロからも、次回がんばろう、となぐさめの言葉をもらったそうです。
それまでの彼だったら、そこで終わりでした。しかし、私のアドバイスを信じて、130を叩いてしまった原因を探したりせず、ひたすら平常心メソッドを続けたところ、後半に大爆発して、終わってみると、比較的ゆうゆうと、その「トライアル予選」を通過し、公式戦の選抜予選への出場を決めたのでした。そして、あれよあれよという間に、準決勝まで進出し、15位という過去最高の公式戦順位を残したのです。
<2018年6月追記>
この男子プロボウラーとは、プロ転向直後から、かれこれもう9年目の付き合いになりました。現在、8年連続でシード権を維持し、2016年には全日本プロボウリング選手権で優勝、プロボウリング協会から「永久A級プロ」の認定を受けています。