薬に頼らず、本番トラウマや対人トラウマを克服するために必要な知識と実践方法 

トラウマとは、強い感情をともなう失敗や恐怖体験で、何度もリアルに映像がフラッシュバックされたり、不安や緊張が突然に思い出されたりする「辛い記憶」です。

虐待・暴行・列車事故など、衝撃的なトラウマ体験を持ち、その後遺症に苦しむ人々をPTSD(心的外傷トラウマ障害)といいますが、次のような恐怖体験、失敗体験もトラウマと呼べるのです。

受験中、緊張から頭が真っ白になった
PK失敗で全国大会に行けなかった

上司から突然、威圧的に怒鳴られた
ピアノ発表会で、演奏が止まってしまった
大切なプレゼンで大失態を演じた

もしあなたが、このようなトラウマを克服できずに悩んでいるのでしたら、是非少し時間をかけて、このページをじっくり読んでみてください。きっと、薬に頼らずにトラウマ克服できる方法について理解できると思います。

PTSDの克服は難しいが、本番トラウマや対人トラウマの多くは自力で克服できる

トラウマを抱えている人は、人前に立っただけで、会場に入っただけで、体が震えたり、心臓がドキドキしたり、汗をかいたり、お腹が痛くなるといったことが起こるようになります。また、心理的に不安になり、怖くなったり、思考が働かなくなったりします。

そして、いつもは問題なくできることが、不安や緊張のために、できなくなる。もしくは、普段は考えないようなネガティブなことまで考えてしまうということが起きてしまうのです。

これがスポーツの試合や、音楽の演奏会、仕事でのプレゼンなどについて起こったのであれば、それは「本番トラウマ」で、大勢の人前や、ある特定の人物について起こってしまうのが「対人トラウマ」です。

本番トラウマを克服できないでいると、そのことが普段も頭から離れないので、日常を気持ちよく過ごすことができなくなります。本来の力を発揮することができないことが続き、悔しい思いをするだけでなく、監督や上司など、周りからの評価も下がったりで、中長期的にもモチベーション低下、成績低下、自信喪失を引き起こすようになります。

また、特定の上司や先輩に対しての対人トラウマの場合、仕事のミスを繰り返すだけでなく、離職やひきこもりなどにつながることも多いのです。

難しいのは、記憶に残っているほどの、ひどいトラウマ体験があるわけではないのに、こういったトラウマ症状が起こることも多いということです。このようなトラウマは「苦手意識」くらいで表現されることも少なくありませんが(ex.威圧的な上司にはうまく対応できない)、いずれにせよトラウマの一種であり、本来の力を発揮できず、パフォーマンスが下がってしまいます。

しかし、ご安心ください。

虐待・暴行・列車事故など、衝撃的なトラウマ体験=PTSD(心的外傷トラウマ障害)を治すことは、専門の心理カウンセラーでも決して簡単なことではありませんし、私にも難しいです。

しかし、スポーツ・演奏・受験・ビジネスなどでの本番トラウマや、対人トラウマを克服させることは、正直、そこまで難しくはなく、実際、過去に本当に多くのひとをトラウマから解放してきました。

トラウマの脳内メカニズムは、今ではかなり詳細に解明されています。そして、不安や恐怖がどう起こるのか?そしてどう強化されるのか、そしてそれを弱めるにはどうしたら良いのかが分かってきています。トラウマ克服の方法について話す前に、まずはそこを説明したいと思います。

トラウマの脳内メカニズム 気合やプラス思考ではトラウマを克服できない理由

今でも多くや監督やコーチが、本番で萎縮して結果を出せないアスリートに対して、「気持ちが弱いから」「考えがネガティブだからそうなるんだ」といった精神論を語っています。それどころか、心理の専門家のなかにも同じようなことを言っている人も少なくありません。

確かに、性格や考え方が、トラウマの克服を妨げているケースはありますし、また、長くトラウマで苦しんでいると、性格や考え方がゆがんでしまうのも確かです。

しかし、トラウマで苦しんでいる人は、自分で意識して、過去の嫌な記憶を思い出しているのでしょうか?

あなたが恐怖を抱く場面を思い出してください。それが本番トラウマであれば、会場に入り、人前に立つだけで、ストレス反応が起こって、心臓がドキドキし、不安が出てきたと思います。なぜ会場に入るだけでそうなってしまうのでしょうか?

ここ理解すると、トラウマ克服のために本当に必要な方法が見えてきます。自分で意識的にトラウマ記憶、あの過去の嫌な体験をフラッシュバックさせていたのでしょうか?

もちろん、そうではありません。無意識にフラッシュバックさせてしまっているのです。「無意識」というのがポイントです。実は、無意識こそが、トラウマの本質なのです。

このトラウマ反応の本質については、有名なパブロフの犬の話がとても参考になります。ロシアの生理学者パブロフは、実験中、犬に餌を与える前に、鐘を鳴らしました。これを繰り返すと、鐘を鳴らすだけで、犬は唾液をたらすようになりました。これは専門用語で「条件付け」と呼ばれています。

反対に、餌を与えるのではなく、鐘を鳴らすと同時に電気ショック与えることを続けると、鐘の音を聞くだけで、犬は怯えて震えるようになります。「鐘の音」という条件が、「震え・恐怖」という反応に結びついたのです。これも「条件付け」です。より正確には「恐怖条件付け」と呼びます。

あなたが特定の場面で、体が震え、汗をかき、不快な感覚に陥るのは、この「恐怖条件付け」と呼ばれる神経メカニズムが原因です。

このような「恐怖条件付け」の神経メカニズムによって、あなたは、過去にやってしまった大きな失敗や恥ずかしい思いを、無意識のうちに思い出してしまうのです。思い出したくて思い出すのではなくて、反射的に思い出されてしまうのです。基本的には、日本人が梅干しを見ただけで、反射的に「唾」がでるのと同じです。

阪神や東日本大震災を経験した方の中には、震度1や2の地震を感じただけで、ものすごい恐怖感に襲われる人もいます。また、JR西日本の尼崎脱線事故で生き残ることができた乗客には、いまでも電車に乗ることができない人も少なくありません。電車を見るだけで、そのときの恐怖体験がよみがえるのです。

トラウマによる恐怖感情(=ストレス反応)は条件反射的に起こるのであって、決してマイナス思考から起こるものではありません。気合やプラス思考では、梅干しをみて出る唾を抑えることはできないのです。

ですから、大事なことは、条件反射的に起こってしまう恐怖感情をどのようにコントロールするかなのです。

脳の構造上、トラウマは消去できないが、少しずつ上書きできる

トラウマ克服を目指す上で、まずあなたに最初に知っておいてもらいたいのは、トラウマは突然にはなくならないということです。

何か学んだからといって、何か起こったからといって、トラウマが突然消えてなくなるということはありません。トラウマというのは記憶であって、いったん脳に刻まれた記憶は、決して消えてなくなることはありません。車の運転を覚えたあなたは、決して車の運転を全く忘れてしまうことはないのです。脳の構造上、記憶を消すことはできないのです。

それではどうしたら良いのかというと、記憶を少しずつ上書きして、トラウマの反応を変えていけば良いのです。例えば、大勢の人前で心臓がバクバクしてしまうのであれば、まずは心臓のバクバクをこれまでよりも小さくすることが大切です。そのうえで、これまでよりも声が震えずに話しをすることができれば、トラウマ記憶は少し書き換えられたことになります。

こういったトラウマ記憶の書き換えを少しずつ、望ましい方向に変えていくなかで、どこかの段階で、大勢の人前に立っても、それほど心臓がドキドキせず、「ただ逃げてしまいたい」といった思考も小さくなっていくのです。

私がこれまでトラウマ克服を支援してきた多くのクライアントたちも、徐々にトラウマ反応を弱くしていき、結果的に問題ないレベルまでに「小さく」しただけなのです。

よくインターネットや書籍などでは、「たった3日でトラウマが消える!」というような表現をしている専門家もいますが、残念ながらその効果は長続きしません。

一時的に暗示をかけて弱めただけで、本質的には問題は解決されていないからです。しかし、時間をかけて徐々に書き換えられた記憶は定着しやすいことが分かっています。

トラウマ反応を徐々に弱くすることが、トラウマ克服につながる。その有効な方法とは?

それでは、トラウマ反応を弱くするにはどうしたら良いのかというと、一番簡単なのは呼吸法です。なぜなら、トラウマ反応には必ず自律神経の乱れを伴うのですが、呼吸法は自律神経を安定させるうえで、とても効果的で、簡単な方法だからです。

お勧めなのはレゾナンス呼吸法です。シンプルな呼吸法ですが、効果も高く、かつ効果を確認できる方法もあるからです。

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しかし、ちょっと呼吸法をやったからといって、すぐに自覚できるほどの変化が起こるわけではありません。あがり症のひとが、本番前に深呼吸をしたからといって、その効果を感じられないのと同じことです。

ですから、呼吸法の練習は徹底的にやってください。まずは少しずつ、トラウマ反応(恐怖・委縮・緊張など)を弱くするところから始めるのです。結局のところ、精神科に行って処方される薬(ベータ遮断薬・抗不安薬など)というのは、こういったトラウマ反応を一時的に弱くする力があるのです。

石井塾では、こういった薬に頼らずに、呼吸法やイメージといった、恐怖感情を自分でコントロールする「メンタルスキル」を丁寧に教え、それをトレーニングを通して高めていけるように指導しています。

メンタルスキルを高めれば、トラウマの克服だけでなく、様々なストレスへの対処法も同時に身につけることができるので、一石二鳥です。

トラウマを克服できる人、できない人

これまでの経験のなかで、確信を持って言えることは、トラウマを長く引きずれば引きずるほど、その克服が難しくなるということです。

なぜなら、そのトラウマ記憶を自分で悪いほうに、より複雑に、上書きしてしまうために、トラウマ反応がより強固で、複雑になっているからです。

ここは本当に大事なポイントです。

つまり、トラウマを克服できる人と、できない人の大きな違いは、簡単に言ってしまえば、トラウマが強固で複雑になってしまっているかどうか?によるのです。

例えば、スポーツや音楽で本番トラウマのために力を発揮できない状態が続くと、心から自信をなくしていきます。コーチやチームメイトとの関係が悪化したり、モチベーションも失ったりしてしまいます。

人間関係のトラウマを持った人も同じで、人間関係に失敗し、積極的に他者と関われなくなってしまうと、性格が変わったり、自宅に引きこもったりしてしまうのです。10年引きこもってしまうと、そこから社会復帰することは本当に難しくなります。

トラウマを抱えている期間が、どの位なら大丈夫か?というのは、トラウマの大きさや、トラウマの対象、あなた本来の性格、家族の支援など、色々な要因によって異なるので、一概には言えませんが、通常は1-2年程度であれば、それほど改善に時間がかからないことが多いです。

しかし、トラウマが半年前のものであっても、それが衝撃的な大きさだったり、10年前のプレゼンの失敗トラウマを抱えていても、それ以降、なんとか上手くプレゼン機会を逃れてきたというような社会人は、時間が経っていたとしても、トラウマ記憶は複雑化していないので、それほど改善に影響はありません。

また、トラウマを克服したいという強いモチベーションがあるかどうかも大きな要素です。「とりあえずトラウマを克服したい」という曖昧なひとだと、モチベーションは弱すぎて、トレーニングを継続できない人が少なくありません。

しかし、仕事で、スポーツで、音楽で、今はトラウマで萎縮して悔しい思いをしているけれども、努力して、自分の力を思う存分発揮できるようになりたいと強く願う方であれば、時間をかけてじっくりトレーニングに取り組んでいけるので、トラウマ克服につながるケースが多いです。

大事なことは、ひどくこじらせてしまう前にアクションを起こすこと

自分ひとりではなかなか続けられないなと感じたのであれば、専門家の支援も検討してみてください。

メンタルトレーニング石井塾では、本番トラウマでも、対人トラウマでも、薬の力に頼らずに、自分の力で、トラウマを克服できるように支援します。

対人トラウマと本番トラウマを克服したひとからのメッセージ

石井先生、本当にありがとうございました。今、初回相談から数ヶ月が経っていますが、全く手も震えなくなり、今までの自分に戻ったようです。医局内も明るくなりました。あのとき、先生のホームページを見る機会がなかったら、自分はどうなっていたのだろうと考えると非常に恐ろしいです。ホルモンのバランスを「自分の力」で正常化することで、体内や心理状態を整えるというメンタルトレーニング法は、患者を薬漬けにしてしまいがちな私たち医師が忘れている大切なことを思い出させてくれました。

先輩医師への対人トラウマを克服した20代女医

石井先生、本番を終えてきました。3月の時点では、人のステージを見るだけで震えが来て、「私はステージに立つことは2度とできない」と思っていたことを考えると、本当に良くここまで復活出来たなと感謝の気持ちで一杯です。

声楽家 30代女性

もしも石井塾がなかったら、もしも友人が石井塾を探して勧めてくれなかったら、わたしはまだ緊張のどん底でもがき苦しんでいたのだと思います。先生のサポートのおかげで壁を越えて、また新たな一歩が踏み出せました。本当に通えてよかったです。ありがとうございました。同じような悩みを抱えている方が、石井先生と出会えることを切に願います。

管楽器演奏家 20代女性

入塾相談の申込


参考文献:『エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学』(東京大学出版会2003)