先月入塾された女性アマチュア登山家のMさん。30代で、山に目覚め、トレッキングやクライミングには飽き足らず、今ではアルパインクライミングという、岸壁・氷山など、なんでもありの最難の登山に嵌っています。
登山家のメンタルトレーニングは初めてだったのですが、Mさんの話を詳しく聞いていると、人はなぜ山に登るのか?という答えが見えてくるような気がしました。それはつまり、山登りとは、常に自分との戦いであり、自分の能力の限界を試し、大きな喜びを感じることができる、とても直接的なアクティビティーであるということです。
実際、フロー理論を提唱したチクセントミハイの名著「フロー体験 喜びの現象学」でも、数多くのロッククライマーや登山家の例えが出てきています。
フローを体験するための最大のポイントは、「自分の能力が最大に発揮されていること」なのですが、そのためには、能力と、挑戦レベルのバランスが取れていなければなりません。その点、登山やクライミングは、自分の能力に見合った山や岩を選べるので、フローを体験しやすいのでしょう。
彼女の入塾相談の申込み時の「決意表明」も素晴らしいので、ぜひちょっと紹介したいと思います。
いざという時の冷静な判断、積み上げて来た体験を本番で発揮するにはモチベーションの維持、継続する練習を投げ出さないことは当然ですが、より高度な山岳技術をこれからも研鑽して行くためにはメンタル面でのトレーニングを加えて行く必要があると思われます。
予期しない怪我や天候による敗退もあり、自然を相手に入山をしているので思い通りの結果が果たせない事が多いのです。それでもあきらめずくじけず登頂成功を目指すには自分との戦いがあるのです。その戦いから逃げない、自分との約束を果たし自信につなげて行きたい。
文章から察すると、少し固い人物のような印象がありますが、実際は、とても気さくな方です。セッション中も笑いが多いです。
私自身は、アルパインクライミングについて何も知りませんので、彼女の話を伺いながら、メンタルトレーニングでどんな準備ができるのか、一緒に考えていきたいと思います。恐らくポイントは、長時間のクライミングのなかで、局面に応じて、どのようにオンとオフを切り替えるかです。難局では無駄なくエネルギーを投入し、短い休憩のなかで、どのようにエネルギーを回復するか?など。
また、天候悪化などによる入山への予期不安をコントロールしたり、滑落や怪我などの不運な事故をトラウマとしないような取り組みも必要でしょう。実際、このような事故がトラウマとなって、山を辞めてしまう人も少なくないようです。
まずはメンタルトレーニングの基礎として呼吸法をしっかりマスターしてもらい、そのあと、局面に応じて必要なイメージトレーニングをしていくことになると思います。