こんなに頑張っているのに結果が出ない…
本番になると、いつもと全然違ってしまう…
もしあなたが、仕事、スポーツやゴルフ、演奏やダンスなどに真剣に取り組んでいる中で、このように感じることがあれば、どうか少し時間をください。
この記事では、プロのメンタルコーチが、人前や本番で本来の力を発揮できるようになるためのメンタルトレーニングの方法について、できる限り「実践的」な形で解説しています。
その気になれば誰でも取り組める入門的な方法(呼吸法・ルーティン)から、プロやトップパフォーマーだけに推奨される高度なイメージトレーニングまで。
メンタルトレーニングにどのように取り組むか?は、あなたの本気度や状況、トラウマの程度や性格タイプによって異なります。
この記事を最後まで読み終えるころには、あなたは、あなたに必要な「本番に強いメンタル」を手に入れるために、具体的に何から始めれば良いかがわかっているはずです。
本番で力を発揮できれば、まだまだ成長できる!
低迷の悪循環から、成長の好循環へ
あなたが本番で力を十分に発揮できたときのことを想像してみてください。
大きな商談でのプレゼン、スポーツの決勝戦、音楽コンクール、難易度の高い手術など、
力を出し切って本番を終えた時の達成感、充足感、喜びは格別です。
しかし、それだけではありません。
本番で力を発揮できていれば、常にポジティブな心理状態でいることができるので、日々の練習や勉強にも集中でき、長期的な成長の好循環に入れます。
その先にはより大きな舞台が待っています。
努力したら、努力した分だけの未来が待っているのです。
本番で力を発揮できないでいると…低迷の悪循環に

反対に、本番で力を出せないと、これだけ努力したのに報われないという気持ちに陥ります。
それが続くと、日々、ネガティブな心理状態になり、努力することを諦めてしまったり、自信を喪失したりします。
大好きだったものが楽しくなくなり、練習や勉強にも身が入らなくなり、低迷の悪循環に入ってしまうのです。
実際のところ、この低迷の悪循環に入ってしまう人が少なくありません。
小さな頃から熱心にスポーツや楽器などに取り組み、中学高校と全国レベルで戦えていたのに、ある失敗体験をきっかけに、本番で力を発揮できなくなり、自信を失って、プロを目指して頑張るのを辞めてしまう学生は大勢います。
こんなに頑張ってもダメだったから、もう***はやめる…。
こんな早まった決断をしてしまいがちなのです。
本当にもったいない。
今、あなたやあなたの家族が、そんな低迷の悪循環に入ってしまっているようでしたら、ぜひこれから紹介するメンタルトレーニングに取り組んでみてください。
時間とエネルギーの使いどころを少し変えるだけで、これまでの努力が実を結ぶようになるはずです。
なぜ本番だと力が発揮できなくなってしまうのか?脳科学的な考察
要因① 脳の出力パターンが変わるから
スポーツで、プレゼンで、音楽の発表会で、いつも練習ではできることが、本番になるとできなくなってしまうのは、なぜでしょうか?
基本的には誰でも、練習よりも本番のほうが、パフォーマンスの質は下がります。
なぜなら、私たちの脳の仕組み上、そのようにできているからです。
いつもとは違う場所や、プレッシャー下では、脳の出力パターンが変わり、脳は、普段の通りのアウトプット(技能や思考)ができなくなります。
そして、いつもと同じようにできないことが、新たなストレスになるので、さらに出力パターンが変わり、もっとできなくなります。
これが急激に起こるとパニックに陥ることもあります。
ただ、どれくらい出力パターンが変わるかは、多少個人差があるし、性格、考え方、トラウマ、競技特性、技能レベルなどによって異なります。
要因② 余計な思考やマイクロコントロール
ブルースリーの名言として、よく知られています。
ブルースリーは、強敵との戦いのなかでは、考えることが動きが悪くすることを経験的に知っていたのでしょう。
この名言の効果は、今ではスポーツ科学・脳科学でも証明されています。
様々な研究から、本番においては、余計な思考や、繊細な身体制御(=マイクロコントロール)が、パフォーマンス(速さや正確性)を低下させることがわかっているのです。
テニスやゴルフ、楽器演奏などにおいてはわかりやすいと思いますが、スピーチや講演などにおいても、一語一句丸暗記するような準備をしてしまうと、全体として自然でなくなり、印象が悪くなるのです。
このようなパフォーマンス低下は、脳科学的には、ワーキングメモリーという短期記憶の貯蔵庫が、容量オーバーを起こしてしまうことが原因です。
昔のNIKEのCMにあったように、「Just do it!」が本番では理想なのです。
要因③ トラウマ記憶(失敗体験)
トラウマとは、強い感情をともなう失敗記憶や恐怖体験のことです。
過去に人前で大失敗したり、小さい失敗を繰り返したりしたひとは、人前に立っただけで、会場に入っただけで、体が震えたり、心臓がドキドキしたり、汗をかいたり、お腹が痛くなるといったことが起こるようになります。
また、心理的に不安になり、怖くなったり、思考が働かなくなったりします。
このため、いつもは問題なくできることが、緊張や震えのために、人前ではできなくなるのです。
いわゆる、あがり・過緊張、パニック、恐怖心、イップスなどの症状ですが、このほとんどが本番での失敗体験=トラウマ記憶が原因で起こっています。
トラウマ記憶は、脳の奥にある扁桃体という部位が関連していることが、1990年代の脳研究でわかっており、無意識・条件反射的に起こるのが特徴です。
脳科学の知見をメンタルトレーニングに生かす
このように、人前や本番で起こるパフォーマンスの低下は、今やかなりの部分が脳科学で解明されています。
低下の原因がわかっているのであれば、その予防や改善方法のヒントも得られるのです。
武士道精神の強い日本では、今でも気合や根性で、本番を乗り越えるような指導がされることが多いですが、脳科学の知見をうまく使うことによって、これらのパフォーマンス低下の要因をひとつずつ取り除くことができるのです。
それを可能にするのがメンタルトレーニングです。
メンタルトレーニングを上手に活用すれば、脳の出力コントール、本番で考えすぎない、そしてトラウマ克服も可能なのです。
本番で力を発揮するためのメンタルトレーニングとは?
「本番に強いメンタル」はトレーニングで獲得できるスキル
「本番で力を発揮できるメンタル」は、生まれつきの才能ではありません。
もしくは精神論で語られるような「気持ちの問題」や、単なるプラス思考でもありません。
適切なトレーニングによって誰でも獲得できるスキルなのです。
正しくテニスの素振りを繰り返えせば、必然的にテニスショットは上達します。
同じように、正しくメンタルトレーニングを継続すれば、スキルとして「本番で力を発揮できるメンタル」を高めることができるのです。
日本ではまだまだ精神論が主流なところもあり、本人も家族も、そしてコーチも「とにかく頑張ろう」みたいな考え方から抜け出せてません。
練習量はだれにも負けないのに、どうしても本番で結果が残せない。
本当にもったいない。
そんなあなたは、「本番に強いメンタル」をスキルとして磨くことで、大舞台で結果を出し続け、もっと成長できる可能性が高くなるはずです。
メンタルトレーニングは、メンタルスキルを高めるトレーニング
メンタルトレーニングとは、心理的なスキルを向上させるための体系的な練習方法のこと。
このためメンタルスキルトレーニングと呼ぶ人もいます。
メンタルトレーニングの歴史は1950年代に、旧ソ連のスポーツ心理学者たちが競技力向上のために開発したことが始まりとされています。
1960年代から70年代にかけて、欧米諸国でも注目され始め、特にオリンピック選手の育成に活用されるようになりました。
現在では、アスリートだけでなく、ビジネスパーソン、芸術家など、幅広い層の人々が活用しており、個人の成長や目標達成を支援する効果的なツールとして認識されています。
研究調査からも、メンタルトレーニングが私たちの脳機能や心理状態に具体的な影響を与え、日常生活やパフォーマンスの向上に寄与することを示唆しています。
これを使わない手はありません。
メンタルトレーニングの分類
メンタルトレーニングを大きく分類すると、「認知思考系」「暗示催眠系」「行動感覚系」の3つにわけることができます。
それぞれのタイプ別に、人前でのスピーチで緊張してしまう人のメンタルトレーニングの例も含めて紹介します。
認知思考系 | 緊張することは悪くないと考える |
---|---|
暗示催眠系 | 自分は堂々とスピーチできる、必ず成功すると、言葉やイメージで自分に暗示をかける |
行動感覚系 | 呼吸やストレッチで、心拍増加や、身体緊張を緩和させる |
どのタイプのメンタルトレーニングに取り組むのが良いのかは、あなたの置かれた状況や、症状、経歴や実績、性格タイプによって違ってきます。
大事なことは、自分に合ったメンタルトレーニングの方法を選ぶことです。
「本番で力を発揮できる強いメンタル」が作られていく重要なプロセス
安定した「本番で力を発揮できるメンタル」は、ある日突然に出来上がるものではありません。
今のあなたの状態次第ですが、ここで紹介するメンタルトレーニングに地道に取り組み、ひとつひとつのメンタルスキルを着実に磨いていくことで、大事な場面で少しずつ力を発揮できるようになります。
こうした成功体験の積み重ねが、ここ一番に強いメンタルには必ず必要です。
成功体験なしに、「本番に強いメンタル」はありえないのです。
トップアスリートが「本番に強いメンタル」を持っているのは、それまでに成功体験を重ねてきているからです。
本番で力を発揮できるメンタルトレーニング 初級編
前置きが長くなりましたが、それではここから、本番で力を発揮するためのメンタルトレーニングを紹介してきたいと思います。
まずは初級編として、誰でも簡単に始められる呼吸法、ルーティン、セルフトークについて説明します。

レゾナンス呼吸法
「本番で力を発揮できるメンタル」を作る土台のスキルとなるのが平常心です。
この平常心こそが、他の7つのスキルの土台になるものでもあり、とても重要です。
でも、頭では平常心が大事なのは分かっているのに、大事な場面では、それが平常心でいるのができなくなりませんか?
平常心は頭でわかっているだけではだめなのです。
私が強く推奨しているのは、心の状態として平常心を作ることではなく、体の状態としての平常心。
その状態を再現するためのレゾナンス呼吸法です。
ステップ① 椅子に座り、姿勢をただす

レゾナンス呼吸では、非常に姿勢が重要になります。
椅子には深く腰掛けずに、地面と90度となるように背骨をまっすぐ伸ばし、軽く胸を張るような感覚で、少し顎を引いてください。
ステップ② 意識を心臓周辺に向ける

右手をイラストのように心臓の上に置いてみることで、心臓への意識がより簡単になります。心臓への意識は、次のステップでも続けてください。
ステップ③ そのまま5秒間隔で、吐くと吸うを繰り返す

少しだけ深めに、できるだけ自然に、5-6秒間隔で呼吸を繰り返して下さい
レゾナンス呼吸法を普段から丁寧に続けていくことで、それが体に定着し、徐々に大事な場面で平常心を再現できる確率は高くなります。
この平常心を高めるレゾナンス呼吸法については、詳しくは下記のページを参考にしてみてください。


ルーティン
ルーティンとは、重要な場面の前に行う一連の決まった行動習慣のこと。
まだまだ多くの人が、ルーティンを「本番前に〇〇を食べる」とか、「赤色のネクタイをつける」といった儀式行動と混同しています。
ルーティンを効果的に使いこなせると、一貫性と心理的安定をもたらし、本番での実力発揮を確実にサポートする重要なツールとなります。
具体的なルーティンの例としては、こんな感じになります。
スポーツ選手(テニス)の試合前:
軽いジョギングとストレッチ(5分)
深呼吸とイメージトレーニング(2分)
「落ち着いて、リラックスする」と自己対話
成功するプレーをイメージ
ラケットグリップの確認とボールの感触を確かめる(1分)
ポジティブな自己暗示(「私は準備ができている。全力を出し切る」)

ビジネスパーソンの重要なプレゼン前:
オフィス内を歩きながら姿勢を正す(2分)
水を飲みながら深呼吸(1分)
プレゼン資料の最終確認(3分)
ポジティブなセルフトーク(「私は十分準備している。自信を持って話せる」)
声出し練習(key pointsを小声で復唱)(1分)
ルーティンは、状況や個人の好みに応じてカスタマイズすることが重要です。
ゴルフではショットやパットの前では、多くのプロゴルファーは独自のルーティンを持っています。
いずれにせよ定期的に実践し、本番でも自然に行えるようにすることで、ここ一番の場面での実力発揮につながります。
ルーティンは柔軟性を持たせ、予期せぬ状況にも対応できるようにしておくことが大切です。

あるゴルフ関連のYoutube動画で、俳優の中川大志さんに、レゾナンス呼吸法と、ゴルフのルーティンを指導したのがこれです。
基礎として身につけたレゾナンス呼吸法を、実際の場面で、どう応用するのかまでわかってもらえるはずです。
セルフトーク
セルフトークとは、自分自身に話しかけるような会話や内的思考のこと。
具体的なセルフトークの例は、こんな感じです。
プレゼンテーション前:
「私は十分に準備をしてきた。自信を持って話せる」
「聴衆との対話を楽しむ。私の話は価値がある」
スポーツの試合前:
「私の体は最高のコンディションにある。全力を出し切れる」
「一瞬一瞬に集中する。今この瞬間を楽しむ」
重要な商談前:
「私には豊富な知識と経験がある。相手のニーズに的確に応えられる」
「落ち着いて聞き、明確に話す。私のコミュニケーション能力を信じている」
失敗した後:
「これは学びの機会だ。次は何をすべきかを冷静に分析する」
「失敗は成功への一歩。ここから成長できる」
ここ一番の大事な場面で、意図的に行うポジティブなセルフトークは、とても効果的です。
このようなセルフトークによって、ここ一番の場面でも冷静さを保ち、自信を維持し、最高のパフォーマンスを発揮する可能性が高まります。
日常的に練習し、自分に合ったフレーズを見つけることが大切です。
ただポジティブな言葉をいえば良いのではなく、あなたにとって腹落ちする言葉を選ぶようにしましょう。
セルフトークは、ルーティンやイメージと組み合わせることで、より効果を発揮しやすくなるし、大事な場面で忘れずにできるようになります。
本番で力を発揮できメンタルトレーニング 中級編
次にイメージを中心とした中級レベルのメンタルトレーニングを紹介します。
まずはそもそもイメージトレーニングって何?本当に効果があるの?というところから説明します。
イメージトレーニングとは?
イメージトレーニングは、心理学と脳科学の知見を応用した「メンタルトレーニング」のひとつです。
体を動かさず、実際の行動や経験を鮮明に想像し、脳内で様々なシミュレーションすることを基本としています。
ただぼんやりと考えるのではなく、できるだけはっきりと細かく想像します。
見える景色、聞こえる音、感じる触感、時には匂いや味まで想像します。
このように頭の中で練習すると、実際に体を動かしているときと似たように脳が働き、体は動いていなくても、脳は本当の経験をしているかのように反応するのです。
イメージトレーニングの効果
多くの人は、イメージトレーニングはひとつの方法だと勘違いしています。
実はイメージのやり方は無数にあり、やり方はイメージを行う目的によって、変わってくるものなのです。
例えばイメージの効果にはこんなものがあります。
本番力向上
集中力向上
感情コントロール
ゾーン・フロー体験
技能上達
モチベーション
怪我の予防と回復
これらの多くは、この記事における「本番に強いメンタル」と同じ方向性ですが、技能上達や、怪我の予防と回復など、違うものもあるのです。
イメージのやり方次第で効果が異なるので、あなたの目的、高めたいメンタルスキルに応じたイメージトレーニングを行うようにしましょう。
イメージトレーニングが難しい理由
まず今、目を瞑って、10秒くらいかけて、日本の国旗「日の丸」を思い描いてみてください。
ほとんどの人は、このくらいのイメージは普通にできるでしょう。
私たちは誰でも、頭の中で何かをイメージする能力を持っています。
しかし中には、きちんとイメージできたかどうか自信がないという人や、イメージはできたけども日の丸に色がないという人もいます。
日の丸のイメージでさえそうなのだから、もっと複雑なイメージ、例えば、来週のプレゼンでスピーチしている自分だとか、ゴルフスイングだとかになると、もっと個人差は大きくなるものです。
つまり、イメージとは個人差のある能力であり、もともとイメージ能力が高いという人はいて(もともと筋肉量が多い人がいるように)、そういった人はイメージをたやすくこなすし、その効果を実感しやすいものなのです。
私はあまりイメージ能力が高くないかも…。
そんなあなたでも、順番を追って、きちんと段階的にトレーニングしていけば、徐々にイメージ能力は高くなっていきます。

それでは次に具体的なイメージの方法について、紹介していきたいと思います。
残像イメージ
イメージトレーニングを始める入り口として、お勧めしたいのが残像イメージです。
残像イメージでは、目の前の光景を、そのまま瞼に焼き付けるように記憶して、いったん目を閉じて、その景色を、できる限りリアルに、強く、鮮明に、イメージで思い出すようにします。
例えば、建物を残像イメージする場合には、その建物は何階建てで、いくつの窓があるとか、ぱっと見て記憶した残像イメージから、答えられるようになったら最高です。
また、別の残像イメージ法では、ある色に注目します。
例えば、電車の中を見渡して「赤」を探します。
そのあと、目を閉じて、電車のどこに、どんな赤があったのかを思い出すのです。
この残像イメージ法を、独自のカードなどを使って提案しているのが、高岸弘氏のRCT残像トレーニングです。
特徴的なカードを使うことで、暗示効果も狙っているようですが、イメージ初心者にとっては、とっつきやすい方法だと思います。
残像イメージ法を実際にやってみるとわかりますが、細かいところまでしっかりとイメージする(頭の中で描けるようになる)には、かなりの集中力が求められます。
ここ一番の場面では、余計な思考や雑念が、本来の動きを邪魔してしまうものです。
実は、この視覚イメージへの意識集中こそが、余計な不安や雑念を排除してくれるのです。
実現イメージ(アファメーション)
実現イメージとは、成功した自分をイメージする方法です。
「成功イメージ」や「アファメーション」と呼ばれることもあります。
イメージトレーニングというと、この実現イメージのことだと考えている人が多いのですが、あなたはどうでしたか?
実現イメージでは、自信満々で堂々とプレーしている自分、表彰台に立っている自分、完ぺきに演技している自分、金メダルをつかんだ自分をイメージしたりします。
少し具体的な例を紹介します。
プレゼンテーションの成功:
- 目を閉じて、自分が大きな会議室やホールのステージに立っている様子を思い浮かべます。
- 聴衆の顔が見えるほど鮮明にイメージします。
- 彼らは熱心に聞き入り、頷いています。
- あなたの声が自信に満ちて響き渡る感覚を想像します。
- プレゼンの最後、聴衆が立ち上がり、熱烈な拍手を送る光景を思い描きます。
- その時の高揚感、達成感、喜びを全身で感じ取ります。

スポーツ競技での優勝:
- 競技場の雰囲気を感じ取ります。
- 観客の歓声、カメラのフラッシュ、場内アナウンスの音を想像します。
- 自分が表彰台の中央に立っている姿を具体的に思い描きます。
- 姿勢は背筋を伸ばし、顔には誇らしげな表情を浮かべています。
- 金メダルの重みを胸に感じ、その冷たい感触と輝きをイメージします。
- 国歌が流れ始め、自国の旗が上がっていく様子を見上げます。
- 達成感、誇り、喜びが全身を駆け巡る感覚を味わいます。
実現イメージは、自己暗示と、イメージを組み合わせたものです。
実現イメージがもたらす最大の効果は、あるべき自分をイメージすることで、そうなりたいというモチベーションを高めることにあります。
多くの一般人にとっては、実現イメージする内容は、こうなって欲しいという願望であり、妄想です。
しかし、スポーツや楽器のプロはそうではありません。
実現イメージの内容は、目指すべき完ぺきなパフォーマンスです。
このため、トップアスリートが「競技を完ぺきにこなしている自分」をイメージするのは、実現イメージではなく、メンタルリハーサルという別のイメトレにもなるのです。
このあたりはとても混同しやすいところで、実現イメージばかりしていると、それだけで満足してしまい、結局パフォーマンスの質が下がるという研究もあります。

自己暗示がかかり易いひとを、「被暗示性が高い」と言いますが、被暗示性が高いひとにとっては、この実現イメージで簡単に「ここ一番に強いメンタル」を作ることできることもあります。
なぜなら、実現イメージで自分自身に暗示をかけられるからです。
反対に、「被暗示性の低い」人は、真面目に実現イメージを行っても、なかなか自己暗示がかからず、実現イメージの効果を実感できない場合が多いのです。
しかし、被暗示性が低くても、この実現イメージ法をきちんと続けることで、自分の競技目標を再確認したり、やる気を維持向上したりすることができます。
少しずつ、実現イメージ法ができるように、段階的にトレーニングすることが大切です。
アマゾンで出版されている本を「イメージ(トレーニング)」で検索すると、この実現イメージのやり方についてのものがほとんどです。
実現イメージは、引き寄せ・成功法則・億万長者などの自己啓発セミナーなどで、ほぼ必ず使われるテクニックであり、「なりたい自分」をイメージをさせることで、成功したいという気持ちを強くさせるのです(それによって高額な受講料金を支払ってもらう)。
感謝イメージ
ここ一番に強い世界的なアスリートのひとりが、ゴルフのタイガー・ウッズです。
ここぞという場面で、記憶に残る奇跡的なショットをたくさん残しています。
あなたは、タイガーウッズが、ここ一番の場面、大ピンチの状況のなかで、どのようなことを考えていたと思いますか?
実はタイガー・ウッズは、そのピンチの場面に「感謝」していたそうなのです。
こんな試練を与えてくれて、自分をさらに成長させる機会を与えてくれて、ありがとう!と。
心理学の研究からも、感謝をしているときに、ストレスを相殺するホルモンが出ることがわかっています。
ここ一番の場面でのミスのほとんどは、ストレス過多による力みすぎが原因です。
つまり、ここ一番の場面で心から感謝できるようになれば、ストレスをコントロールし、あなた本来の力が発揮できるようになるのです。
感謝イメージのやり方:
感謝イメージをするときには、レゾナンス呼吸法をやりながらがお勧めです。
あなたが仕事や競技などを通して、こころから自分が成長できていると思えなければ、タイガーウッズのように、ここ一番に対しての感謝イメージを作るのは難しいかもしれません。
まずは家族やお友達など、あなたがお世話になっている人から始めてみましょう。
それから、あなたが置かれている状況、ここ一番の場面などにも、感謝してみるといいでしょう。
本番で力を発揮できるメンタルトレーニング 上級編
運動イメージ
運動イメージとは、身体を動かさずに技術や技能の訓練をするイメージトレーニングです。
メンタルプラクティス(脳内練習)ともいわれます。
近年の脳科学の発展によって、身体を動かさなくても、自分のやりたい動きをイメージすることで、その動きを行うための脳部位が活性化するだけでなく、技能習得につながることがわかっています。
今では多くのトップアスリートが取り入れているイメージですが、頭の中だけで、細かい動きをイメージするのは簡単ではなく、かなりの集中力が必要です。
このため運動イメージが上手くできないアスリートも少なくありません。
運動イメージは、「ここ一番に強いメンタル」を作ることに直接的な影響は大きくありませんが、本番で行う技能をしっかりと定着させることで、自信を高めることに繋がります。
また、運動イメージを一定時間行うことは、かなりの集中力を求められますので、集中力のトレーニングにもなるのです。
運動イメージの目的は、技能習得が主ですが、アスリートや演奏家、外科医などにとっては、次のメンタルリハーサルをよりリアルにできるようにするためにも取り組みたいイメージトレーニングです。
メンタルリハーサル
メンタルリハーサルとは、その言葉のとおり、本番を「頭の中でリハーサルすること」で、本番での状況や自分がやるべきことをリアルに想定し、繰り返しイメージすることです。
私の中では、本番で力を発揮するために、最も大切なメンタルトレーニングであり、これまで紹介したトレーニング(呼吸、ルーティン、セルフトーク、感謝イメージ、運動イメージ)は、このメンタルリハーサルをより洗練、精緻化させるものです。
一般的には実現イメージと混同されがちです。
実現イメージでは、こうなって欲しいという理想的な本番をイメージします。
反面、メンタルリハーサルでは、より現実的な本番をイメージすることが大切です。
あがり症のひとが、全く緊張することも震えることもなく、完ぺきなスピーチをすることは、現実的ではありませんよね?
成功イメージで、こうありたいというイメージするのは構いませんが、実際にはそうならずに、震えが止まらないときには、対処法がなく、頭が真っ白になってしまいます。
メンタルリハーサルでは、そういった震えが起きてしまっている自分までも想定して、その場合にはどうするのかを事前に考えて、対処法を決めておくのです。
メンタルリハーサルこそ、本番で力を発揮できるようになるために、一番重要なメンタルトレーニングです。
メンタルリハーサルを詳しく解説していくと、かなり長くなってしまうので、こちらの記事を参考にしてください。

いきなり週末の試合のメンタルリハーサルをすることはかなり難しいです。
なんとなくはできるかもしれませんが、効果が感じられないと、継続できません。
私は必ずいくつかの段階を踏んでから、メンタルリハーサルを指導しているようにしています。
また、このメンタルリハーサルには、これまでに紹介した「呼吸法」「ルーティン」「セルフトーク」「運動イメージ」「感謝イメージ」などが含まれます。
これらを含めることで、より効果の高い「ここ一番のメンタル」を作れるのです。
シチュエーション別メンタルトレーニング活用法
ビジネスシーン:プレゼンや重要な商談で実力を発揮
公認会計士Kさん(30代前半男性):
威圧的な上司への苦手意識克服し、出世コースをまい進中。
Kさんは国内最大手の監査法人に勤務し、同期の中でも最速でマネージャーに昇格したエリート。
そんなKさんですが、マネージャーに昇格してからある悩みを抱えるようになりました。
それは直属の威圧的な上司(パートナー)との面談や打ち合わせ中に、なぜか思考停止している感じがして、その場で自分の意見をうまく伝えることができなくなるのです。
そして、ミーティングが終わったあとに「ああいえば良かったとか、なぜこう答えられなかったのだろう」と反省することになり、自信やモチベーションを失いかけていたのです。
Kさんに指導したのが「メンタルリハーサル」です。
これまでも上司や顧客との打ち合わせの前に、事前に考える時間を取ることはありましたが、脳内のメンタルリハーサルで、さらに詳細にどういうことを意識して臨めばいいか、こう伝えたらこう反応してくるなど、毎日振り返っていくことで、3か月から半年くらいで、何がいいか悪いか、パターンが分かるようになり、徐々に威圧的な上司との対応が苦でなくなりました。
これに手ごたえを感じたKさんは、コミュニケーション不足の懸念を感じていた部下たちとの指導でも行うようになりました。
これを続けることで、メンタルリハーサルがスキルとして身につき、短い時間でより深くイメージできるようになりました。
今では、毎朝、前日の振り返りや、その日やるべきことの仕事の整理を当たり前のようにするようになり、それは週末、月末も行うようになっています。
メンタルリハーサルを通して、自分がやるべきことを、効率的に、深く考える習慣を身に着けたTさんは、今、順調に役員(パートナー)への道を進んでいます。
スポーツ:試合や競技で最高のパフォーマンスを
ゴルフ場研修生Fさん(20代後半男性):
最終ホールでバーディーを決めて、ボーダーぎりぎりでプロテスト合格!
前年の最終プロテストにおいて、初日の1番ホールで8の大叩きから崩れたゴルフ場研修生Fさん。
ゴルフの調子も良く、不安もほとんどなかったのに、1番ティーに立った途端に震えが起こり、大きく曲げてからの大たたきでした。
その反省からメンタルトレーニングを始め、プロテストでは、出だしのホールをどのような形で迎えるのか、4日間の試合で必ず起こるピンチの場面をどう乗り切るのか、合否を分ける最終ホールのパッティングをどのように打つのかを何度も何度もイメージしました。
その結果、プロテストの最終ホールの5メートルのバーディーパットをねじ込んで、ボーダーぎりぎりで合格を果たしました。
「迷ったら入らない。とにかくルーティン通りにできるだけ考えないで早く打つ」というイメージを何度もしていたのですが、そのとおりに最高のパットが打てたそうです。
芸術・パフォーマンス:舞台や発表で才能を開花させる
学術・研究:試験や発表で知性を最大限に活かす
2)美大受験生Nさん(20代前半女性)
これまで一次試験すら突破できなかった3浪中の受験生が、東京藝術大学に一発合格
Nさんは3浪中で、これまで3度、藝大受験に失敗していました。女性の多浪は精神的に辛く、今年が最後、背水の陣で臨むために、父親の勧めもあり、メンタルトレーニングを始めました。
過去の受験を振り返ると、試験本番でひどい緊張や不安に陥ったわけではないものの、本来の力が発揮できていないことが合格につながらないと感じていたそうです。
藝大(美術学部)の受験は、2日間(11時間)かけて、1枚の絵を制作します。
それを1次と2次で2回繰り返します。
11時間もかける絵画制作において、出だしの制作に無理があったり、時間管理を間違えたりすると、取り返しがつかなくなるそうです。
Nさんの話を伺う中で、ここが肝だと理解できたので、受験本番では2日間11時間を4つのコマに分けて、それぞれのコマにおいて制作管理上のポイントを事前にまとめ、制作に入る前にできる限り具体的にイメージするように指示しました。
このイメージで5-10分使ったとしても、全体で11時間からすればそれほど焦る必要はないし、むしろ焦りを予防し、11時間を有効に活用するための投資と説明しました。
2月に受験本番を迎えるまで、このようなイメージを日々の予備校での絵画制作や、模擬試験などで繰り返し行うことで、徐々に精緻化させていきました。
結果として、受験の時期も精神的には落ち着きを保て、合格を勝ち取りました。
Nさんが藝大に入学してしばらく経ってから貰ったメールには「明確にイメージする力を持つことができて、今の制作でも役に立つことばかりです」と報告をくれました。
ここ一番に強いメンタルを作る:実践プログラム
3週間プログラム
3週間プログラムをお勧めできるのは、大事な本番が近くて、何とかしたい人。
ただし、重度のあがり症の方、トラウマやイップスなどの症状を抱えている人は、3か月プログラムを参考ください。
Week 1:基礎を固める
- 平常心の土台を作るため、レゾナンス呼吸法を毎日2回以上に分けて、合計20-30分ほど実践する
- 本番前に行うルーティンを決めて、まずは始めてみる。
Week 2:4つのトレーニングの集中的に行う
- レゾナンス呼吸をしながら、感謝イメージを少しずつ始める
- ルーティンのなかに呼吸を取り入れられるか考える
- ルーティンのなかに入れるセルフトークを考える
Week 3:実践と統合(実際の場面での応用)
- レゾナンス呼吸法をしながら、実現イメージを始める
- 実現イメージの中では、本番前や本番中に、呼吸、ルーティン、セルフトーク、感謝をしている自分を入れる
3か月プログラム
このプログラムをお勧めするのは、重度のあがり症の方、特定場面のトラウマやイップスを抱えている方です。
こういった方は、まずは地道にメンタルスキルを高めて、小さな成功体験を重ねていく必要があります。
慌てずにじっくりと基礎に取り組むことと、イメージの仕方も少しずつ改善していく必要があります。
Week 1-2:基礎を固める
- 平常心の土台を作るため、レゾナンス呼吸法を毎日2回以上に分けて、合計20分ほど実践する
Week 3-5:4つのトレーニングの集中的に行う
- レゾナンス呼吸をしながら、感謝イメージを少しずつ始める
- ルーティンのなかに呼吸を取り入れられるか考える
- ルーティンのなかに入れるセルフトークを考える
Week 6-12:実践と統合(実際の場面での応用)
- レゾナンス呼吸法をしながら、メンタルリハーサルを始める
- メンタルリハーサルの中では、ここ一番の場面で、呼吸、ルーティン、セルフトーク、感謝をしている自分を入れる。
- 本番で小さな成功体験と、改善点を見つける
- メンタルリハーサルを修正して、次回の本番に備える
- 上記を繰り返す
本番で力を発揮できるようになるかは、あなたが取り組んでいる対象や、あなたが抱えるトラウマの大きさ、本番の頻度にもよります。
小さな成功体験を重ねていくことで、トラウマは少しずつ上書きされていくので、焦らず地道に続けてください。
よくある質問と解決策
「効果が感じられない」場合の対処法
「続かない」を克服する具体的な方法
「時間がない」人のための超効率的なアプローチ
メンタルトレーニングの効果を最大化するための生活習慣アドバイス
現在作成中です。
まとめ:ここ一番で本来の力を発揮するために
参考資料・さらなる学びのために
参考図書
『なぜ本番でしくじるのか?プレッシャーに強い人と弱い人』
シアン・バイロック著 河出書房新社2011

ふぁ