今、私のところには、書痙を抱える方が相談に来られています。
一昔前は、書痙・イップス・ジストニアは、心の問題とされていました。つまり、手の震えは、人前での緊張や、考えかたの歪み、ネガティブな思い込みなどによって起こるものであり、考えかたを変えれば治すことができる、とされていたのです。
しかし近年になって、書痙・ジストニアは、心の問題だけでなく、脳そのものにも原因があることがわかってきました。
大まかにいえば、これらの症状は、過去のトラウマからくる無意識の過緊張・あがり・迷いから生まれるものと、長年において同じことを繰り返した結果、原因不明で脳の運動制御に機能障害が起きてしまうことから生まれてしまうものと、大きく2つの原因があるということなのです。
ここでは前者をトラウマイップス、後者を反復性イップスと呼びます。
野球の送球イップスや、テニスのサーブイップスのほとんどは、トラウマイップスです。これは誰にでも起こりえるものです。
反復性イップスは、職業性ジストニアとも呼ばれ、その道のプロに起こりやすいとされています。音楽家がその楽器を演奏できなくなったり、プログラマが、キーボードを叩けなくなる、書道家が、字を書けなくなったり、プロゴルファーがパットができなくなるのが該当します。
ある精密動作を繰り返し行いすぎると、運動制御機能の不全に陥ってしまうようなのです。
そして、トラウマイップスであれば、呼吸法などのリラクゼーション法、言葉やイメージなどの暗示催眠といった心理療法には高い効果があるものの、反復性イップスであれば、これらの心理療法どころか、薬物治療もあまり役に立たないということがわかりました。
しかし話がややこしいのは、どうも、このトラウマによるイップス(トラウマイップス)と、脳の運動制御不全からくるイップス(反復性イップス)は、「混在」してしまうケースが多いようなのです。
その混在の一例が、書痙です。ある特定の場面で症状が出るという意味では、トラウマイップスに思えます。しかし、書くという行為は、人が長い間、当たり前に反復して行っている行為なので、ここに問題が出るという意味では、脳の運動制御不全の要素もあり、通常の心理療法では改善しないケースがみられるようです。
これは後日詳しく書きたいと思いますが、話すときの「どもり」も同じ原因である可能性が指摘されています。
ここまで分かってきたなかで、じゃあどのように改善計画を立てるかですが、少し長くなりましたので、また次回をお待ちください。
<2015/6/24追記>今年、書痙の大きな改善がみられたトレーニング事例がありました。それをまとめましたので、ご参考ください。
<2018/2/9追記>イップス克服に向けての、私の最新の見解をまとめましたので、ご参考ください。