超一流選手のイメージトレーニングをそのまま真似してはいけない

これはある塾生から聞いた話なのですが、先日、白血病で競技中断が余儀なくされた池江璃花子選手が、まだ元気な頃にテレビ放映された番組で、彼女のイメージトレーニングの方法が紹介されたそうです。

彼女が取り組んでいたイメージトレーニングは、大会本番に向けてのイメージでした。具体的には、控え室で待機しているところから始まり、競泳エリアに向かい、選手紹介の挨拶で会場に手を振り、スタート台に立ち、飛びこんで、ゴールまで泳ぎ切るまでのイメージだったらしいのですが、その途中で、少しでも雑念が入ったり、思った泳ぎをイメージできなかった場合には、最初からやり直し、完璧なイメージまで仕上げるところまで行うとのことでした。

その塾生も、当塾でイメージトレーニングに既に取り組んでいた音楽家でしたが、その感想が「競泳がピアノ演奏よりも時間が短いとしても、そこまで完璧に集中してイメージすることは、私にはできない」というものでした。この音楽家も、ピアノに関しては、かなりストイックで、生活の大半をピアノ練習と演奏に捧げているような人でしたが、その人がこんな感想だったのです。

これは反面、イメージトレーニングを本格的にメンタルトレーニング石井塾で学び、「なんちゃってイメージ」と、「本物のイメージ」の違いがわかるがゆえの発言かでもあります。本当に良いイメージができているかどうかは、多くの人にはわからないからです。

でも、この番組を見ていた少なからずのアスリートやそのコーチは、この池江選手のメンタルトレーニングに触発されて、そんな本番のイメージを、自分でやってみたり、選手に指導していたのではないかなと思います。ただ、残念ながら、ほとんどの選手が、池江選手のようにはイメージはできなかったと思いますし、できたと思っても、それは思い込みレベルであった可能性が高いです。というの、池江選手のように、競泳の世界大会で金メダルをいくつも取れるような超一流アスリート(北島康介や瀬戸大也など)であれば、その競技については、完璧に最後まで泳ぎ切るイメージができたとしても不思議ではありません(それでも途中で何度も集中力が切れてやり直しています)。そして、多くの監督やコーチは、自分ができるイメージを、そのまま選手に求めてしまいがちです。しかし、まだまだ技術レベルの低い選手は、そんなに簡単にイメージすることができません。結果として、イメージが技術として根付かずに、途中で諦めてしまうのです。

テレビのスポーツ番組や、本をたくさん書いているメンタルトレーナーの多くは、イチローや錦織のような超一流アスリートが、どんなメンタルトレーニングをしているのか、どんな考え方をしているのかを披露することが多いのですが(それが最も一般受けするのでしょう)、普段、マンツーマンで様々なレベルの選手と向き合っている私からすると、そんな超一流アスリートしかできないメンタルトレーニングをやることのデメリットがよく見えてしまいます。

私がメンタルトレーナーとして長く活動し、実感しているのは、イメージトレーニングはスキル(技術)であり、スキルは練習によって少しずつ上達するものです。しかし、イメージが実際に上手くできていると実感できなかったり、イメージが本番で効果があったと自覚できないと、イメージの練習は、長くは続かず、いつの間にかやらなくなり、スキルとして身についていきません。これは本当にもったいないことです。

なぜなら、イメージ力こそ、運動や演奏、その他何につけても、その道でひとつでも上を目指すために、最も大事なメンタルスキルだと思うからです。イメージ力は、本番を想定し、どんな状況になっても上手く対応するための準備としても使えるだけでなく、トップに上るために必要な技能上達にも使うことができます。イメージトレーニングは、いつでもどこでもできるだけでなく、脳科学からも、技能上達にとって非常に有効な方法であることもわかっています

しかし現実は、一番よく知られているのは「成功イメージ」というイメージです。優勝して表彰台に立っているといったイメージで、もともとイメージ力があったり、暗示や催眠にかかりやすい人は、それほどトレーニングを重ねなくてもできます。このような成功イメージの効果は、気分がよくなり、自信が生まれることに限定され、その技能が向上することはありません。それはそれで大事なことではありますし、成功イメージで自信をつけ、その自信回復の結果として、競技力が向上することもあります。しかし、その反対の効果が出ることもあります。
成功イメージトレーニングは実は逆効果!(過去のブログ)

超一流選手が、普段、どんなにフィジカル的に体を追い込んでいるのかを知っていれば、超一流選手のフィジカルトレーニングを真似しようとは思わないでしょう。ところが、これがメンタルトレーニングになると、脳内のことだし、誰でもできそうな気がしますから、手を出してみるものの、全くできないことに気づき、辞めてしまう。もしくは自己流でなんとなくやっているふりを続けてしまう。

しかし、それは本当にもったいない。地道に簡単なやり方から、もっと様々な効果を期待して、イメージを活用できるのに。

先日、最近入塾した自転車競技の高校生に、スタートからゴールまでの約2分のイメージを毎日やるように宿題を出しました。しかし、毎日少し取り組んでみたものの、あまりしっくりしたイメージをすることができず、1週間後のセッションでは、ほとんど上手くできなかった、どうやっていいかわからなかったという報告がありました。高校生とはいえ、競技レベルも高いし、地頭もある子です。高校生だからではなく、実際、多くの大人の選手も同じようなところで躓きます。塾OBの漕艇選手で、入塾後に国体で優勝したり、全日本エイトの優勝メンバーになった社会人(北大卒)もそうでした。
イメージトレーニングの効果を「見える化」する

それではどうしたら良いのか?については、そのひとの取組対象によって異なりますが、いきなり全てを同時にやろうとするのではなく、「まずは分解して、できるところから始めてみましょう」というのが大筋の答えになりますが、私は、この高校生には3つの具体的な方法を教えて、次のセッションまで試行錯誤するように指導しました。

テレビや雑誌などで、成功している一流アスリートのメンタルトレーニング体験を聞く機会が増えていますが、それをそのまま真似るのではなく、まずはできるところから始めてみる、というのが、やはり現実的なところだと思います。とくに趣味でスポーツや楽器、ダンスなどに取り組んでいる社会人はそうだと思います。しかし、地道にイメージをスキルとしてとらえ、スポーツでも、演奏でも、仕事に役立たせるために上達させたいのであれば、ぜひ専門家の門をたたいて欲しいと思います。

 

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