音楽イメージと脳波

塾生のAさんは、ソロ・オーケストラ・番組収録などの場面で活躍しているプロ音楽家です。

そんなトップレベルの音楽家の脳波がどうなっているのか、ハイパフォーマーの条件を神経心理学的に探究している私にとっても興味津々でした。

正式入塾後すぐに、脳波を測定させてもらいました。もちろん、興味本位な理由だけでなく、今後、脳波トレーニングに入る可能性もあるし、呼吸やイメージトレーニングによる時系列変化を記録するためでもあります。

測定中にすぐにわかったのは、前頭部の左右(F3とF4)で、大きな脳波の差があるということでした。

左右の脳波が違うのは当たり前なのですが、こここまで目に見えて違いがあるというのは、私の経験上、めったにありません。

詳しく分析してみると、右前頭(F4)において、高ベータ(20-30Hz)だけが、極端に強いのです。

高ベータが強いということは、この部分が強く活性していることを意味しています。この部分の役割として考えられるのが、良い意味でも、悪い意味でも、「(非現実的な)思い込み」です。

これまでの知見や経験から、被暗示性が強い人(暗示がかかりやすい人)や、妄想、強迫観念の強い人は、この部分が強く活性していることが多いのです。

催眠術などで、棒のように固まってしまう人たちは、この部分が強く働いている可能性が高いのです。思い込みで、一部の人は本当に固まるものなのです。宇宙とつながる人もいますし、(一時的には)世界一幸せな人間、不幸せな人間になれるのです。

Aさんは、日常生活において、このような「非現実的な思い込み」で困っていることはありません。それどころか、話していても、とても落ち着いているし、ロジカルに考えられる方です。ですから、普通に考えると、この脳波を上手く説明できません。

しかし、よくよく話を聞くと、面白いことがわかりました。

というのも、Aさんは、普段の練習で、楽器を使わず、脳内演奏(音のイメージトレーニング)をしばしばされるそうです。それは暗譜やリハーサルのためだそうですが、それを行った後しばらく、その音が頭から離れず残ってしまうという症状がたびたび起こるそうなのです。

実は、脳研究からも、音のイメージ、別の言葉でいえば「幻聴」が強く聞こえる人では、右前頭が強く活性することがわかっています。前述のとおり、右前頭は「非現実的な思考や思い込み」にかかわっていますが、「実際にはない音が聞こえる」ということとは、ある意味、共通しているのです。

つまり、Aさんは、長年の音楽活動の中で、繰り返し行ってきた「音のイメージトレーニング」によって、リアルな幻聴を聴けるようになった。それは、右前頭を強く使えるようになっていたからと考えられるし、さらに大胆に推測すれば、それが優れた音楽家の条件のひとつということになるかもしれません。

もちろん、音楽家であれば、ほとんど誰もが、このような音のイメージはすると思いますが、それをどれだけリアルにできるかが、差を生みだすのかもしれません。

あくまでも仮説です。

気をつけなければいけないのは、脳波は個人差が大きいし、それ以外の条件、つまり演奏する楽器や年齢、性別などによる違いの影響もあるかもしれないということです。

しかし、このような仮説に基づいてこそ、次のステップが正しく導きだされます。それは例えば、音のイメージトレーニングを重ねることで、それまで以上に、右前頭の活性が高くなることが、複数の音楽家で確認できれば、この仮説の正当性が高まります。そうなれば、右前頭の活性をイメージトレーニングの指標として、使うことができるようになるかもしれません。

また、脳の基本特性として、オンとオフの差が大事なのですが、その意味では、右前頭を非活性にするトレーニングが、実はより効果的にイメージを生み出せるようになるかもしれないのです。

これらのステップを実際に行うことは、時間はかかりますが、塾生の協力を得ながら、少しずつ試していく予定でいます。

石井塾では、こういった地道なアプローチを重ねていきながら、本当に役に立つメンタルトレーニングを探していきたいと考えています。

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